「レネゲイドウィルスの治療薬が完成した」
 とあるUGN支部の研究室から、
支部長に衝撃的な報告が上がった。

 待ちに待った報せ。だが、唐突な報せ。
 職員の誰もが、無意識に、
まだ先の未来のことだと考えていた。

 浮き足立つ研究者たちを
支部長はあわてて押しとどめる。
 あまりにもセンセーショナルなこのニュースを
 発表するには、
考えなければならないことが多すぎる。
 そもそもどこから接種を行う?
 ファルスハーツはもちろん、
ゼノスの一部から内部離反者まで
 これだけ敵の多い現状で、
UGNだけがオーヴァードの戦力を
失ったらどうなる?

 発生する、
非オーヴァードの職員たちとの関係の軋み。
 実験体には誰がなる?
戦力低下の影響は?
 サイバーウェアを入れている
ブラックドッグはどうすれば?

 予想外の問題の噴出に戸惑うPCたちの前で、
 人魚の姫の物語から借りて
“海の魔女(シー・ウィッチ)”
と名づけられたその薬は
 アンプルの中でただ沈黙している。
 その正体とは……