◆ エンディング:シーン27 ◆ 「ショウ・マスト・ゴー・オン」


 Scene Player ―― “打ち上げ花火”伊達 康介

 Scene Card ―― クグツ(逆位置)



RL:いよいよ試写会の日。監督がシーンプレイヤーで、プロデューサーもいるといい。ハヤテがいるかどうかは監督が決めていいです。

伊達監督:呼ぶ呼ぶ、絶対呼ぶ。

RL:OK。ふたりも席には居るということで。――どんな映画に仕上げたかというのを描写してもらっても良いですか。みんなで撮ったのは飽くまで映像素材。編集してどう仕上げるかは、監督の自由です。

伊達監督:わかりました。では、ほぼ流れをあのまま使うんですが――


「死んだ父の元相棒を頼って、レッガーから逃れて駆け込んでくる少女。

 今の時代にしてはものすごくシンプルな、ここまで王道を撮るかという内容を実直に。

 花火のシーンにはCGを足して爆発にして、吹っ飛ぶレッガーが足りないから自分でいそいそと衣装を着て吹っ飛ぶシーンを撮り足して。

 そんなふうに、アクションの迫力を適宜足しつつ。

 少女が頼った3人組の探偵は、N◎VA中を逃げ回る中で反撃の機会を狙い、相手の情報を調べ、装備を整え、場所を整える。

 最後は敵を待ち受けて対決。敵もシンプルな悪役としてまとめます。

 成り変わりスパイの部分は削って、少女は殺人事件の殺害現場を見てしまっていたという展開にして。

 70年代の日活映画か! ってほどシンプルな話にして、最後はハッピーエンド。

 追加撮影した部分が良かったので、エンディングには『また何かあったら、あの扉を叩くといい』のシーンを使います」


瀬戸ハヤテ:「使われちゃった……!」

伊達監督:「あれ良かったよ瀬戸ちゃん、パート2とかパート3撮る時の布石になるじゃない!」

瀬戸ハヤテ:「だってあの場であれ言わないで終われないって思っちゃったんですよ!」

伊達監督:「それこそが“ハリー・バーリィ”が言わせたセリフってことだから、ホンモノってことなんだよ。あの瞬間、あのフィルム、あの時間の中では」


RL:映画の評判は上々。Masterpiece Pointも満点なので、データ的にもお墨付きです。

永倉P:シンプルだけど、いい映画だ。特に臨場感がいい。

RL:まるで自分たちがこの事件の中を駆け抜けているようだ! と。

永倉P:ナイフがシャーッて主観視点。

伊達監督:(笑)

RL:撃たれるところとかナイフ飛んで来るところとかは、「これは感覚共有型のシムセンス・ムービーじゃないからこそできる映像ですね!?」と言われる。臨場感があり過ぎて、シム映画だったら気絶とか心臓発作とかなる人が出そう。

伊達監督:それはいいな。スクリーンだからこそ見せられる映画。


RL:試写の終了後、お客さんを送り出しているロビーで、あの時のCMEのエージェントが、興奮した表情で監督に駆け寄ってきます。

伊達監督:お。

RL:まずは仕事しなきゃと書類を取り出して。「お疲れさまです。えと、各チェック事項には問題ありませんでした」

伊達監督:「それはよかった!」

エージェント:「というか、すごかったです。僕、この映画好きです。公開されたら自費でもう一度観に行きます」

伊達監督:「でしょー!? もっと言って、もっと言って!」

ALL:(笑)

エージェント:「それで…… 伊達監督、ひとつご相談があるのですが」

伊達監督:「なになに?」


エージェントは話し始めた。

現在、CME映画部門で、ある企画が動き始めている。ここでは詳しくは話せないが、古い大型のシリーズものの新作続編の制作を中心とした企画だ、という。


エージェント:「その肝心の監督がまだ決まっていません。もしよろしければ、当該企画のプロデューサーに、僕と冴子部長からあなたを監督候補としてご推薦申し上げたいのですが、いかがでしょうか。伊達監督がCMEに入ってくださったら、僕、頑張りますよ。二度と予算には困らせません!!」

伊達監督:「あー、――わかった。それはすっげぇありがたい言葉だけど」

エージェント:「では!」

伊達監督:「アクセルピクチャーズのプロデューサーにも訊かないと」

エージェント:「そうですね、それはもちろん!」


伊達監督:歩いて近づきながら、まあ、先ずは「どうだったよタカちゃん! タカちゃんの期待するものが出来たと思うけど?」

永倉P:しかめっつらして「ああ。良かったんじゃねえの」

伊達監督:「あれ? もうちょっと言わない?」

永倉P:「……。良かったよ。久しぶりだな」

伊達監督:「ああ。久しぶりだ」

永倉P:「楽しかったか」

伊達監督:「めちゃくちゃ」

永倉P:「良かった。……良かったよ」


伊達監督:「で、相談なんだけどさ」

永倉P:「なんだよ」

伊達監督:「いやー、俺としてはいくつかアイデアが湧いててさ。ハリーを主人公にして2と3を撮るとか、ジョシュ主演の『カメレオン』撮るとかよ。色々あるんだけど、今CMEからさ」

RL:引き抜きが。

伊達監督:「すげえビッグバジェットムービーのさ、新作を撮ってくれって言われたんだけどさ」

永倉P:「……ああ」

伊達監督:「どう思う?」

永倉P:「そっち行くと、『カメレオン』とか撮れねえけど。お前がいいなら、行ってこい」

伊達監督:「だよなあ。それに」

永倉P:「どうした」

伊達監督:「すごい苦い気持ちが蘇ってくんだよな……。『リベンジ・キャット』がヒットした後に、古い映画の続編の新作を撮ってくれって企画持ちこまれてさ」

永倉P:「ああ」

伊達監督:「なんだったっけ。『ターミネーター7』だ」

永倉P:「あれは辛かった」

伊達監督:「うまく行くと思ったんだよな〜!」

永倉P:「なにがだよ! どこが上手く行くと思ったんだよ! さんざか言ったろあの後!」

伊達監督:「1から6の面白い要素研究して、ツギハギにすれば何とかなると思ったんだよ!」

永倉P:「ああいうのはツギハギじゃねえ、ブツギレってんだ!」

伊達監督:「だから思ったんだよ。もしかしてタカちゃん同じ気持ちかと思って」

永倉P:「なにが」

伊達監督:「オレってもしかして、オレが好きなもの撮った方が上手く行くのかな?」

永倉P:「――……」

伊達監督:「もしかしてなんだけど。すげえ自信が無くてさあ」

永倉P:「おま……、」

伊達監督:「?」


プロデューサーは、長い長い溜息の後に怒鳴った。


永倉P:「――そうだよ!!」


伊達監督:「そっかー! タカちゃんに言われると安心した!」くるっと振り向いて。

エージェント:「あ、はい!」

伊達監督:「すっげぇありがたいんだけど、その話は…… ナシってことで!」

RL:エージェントは少しびっくりした顔をするけれど、「わっかりました! それじゃ、アクセルピクチャーズの新作、楽しみにしてます!」

永倉P:「(小声で)ありゃお前のファンだぞ」

伊達監督:「(小声で)やったね!」


永倉P:「何にせよ、お疲れ」

伊達監督:「タカちゃんもお疲れ!」

永倉P:「俺の仕事はこれからだ。この映画売らねえと」

伊達監督:「あ、そっか」

永倉P:「ま。またこれから13年何の映画も撮れなくっても、この映画だけで食い繋げるようにしてやるよ」

伊達監督:笑って。「タカちゃん、今は13年前とは状況が違うよ。発掘された主演俳優に、謎の新人俳優だ」

永倉P:「そろそろ脚本家にも戻ってきてもらわねえとな」


伊達監督:では、この映画の公開時に《暴露》を。、

RL:了解です。この映画は、どのようにヒットするのでしょうか。カルト的な人気になるか、空前の大ヒットになるか。好きな形で映画という情報を「衆目に晒して」いいですよ。

伊達監督:超大ヒットさせます。そして、N◎VAではVRやシムセンス・ムービーが隆盛していそうなんだけど、さっき言われてたみたいに「シムセンスでやると心臓発作起こす人間が出るくらいの、スクリーンの映画館でしか公開できないような迫力」の映画として、シムにはできない分野を切り開いて。

RL:おお! では、「やっぱ最近、スクリーンいいよな!」っていうムーブメントが起きるほどになります。貴方の映画は、そんなふうに「ちょっとだけ、世界を変えた」。

伊達監督:話の内容的には、この時代にあってびっくりするくらい王道の映画を撮る監督として名を馳せます。今どき、愛と勇気と冒険です! みたいなこう。

RL:それキャッチとしても良いですね!

伊達監督:インタビューを受けると、こう話す。「どうせ、欺瞞や差別や騙し合いは、この街には溢れてるじゃないですか。だから、映画では現実に無いものを撮ろうと思って」

RL:ではそのように。普通の映画館というものに、幾年ぶりに人々が溢れ、行列を作る場面で、アクト“Round About Twilight”終幕となります。ありがとうございました!

ALL:おつかれさまでしたー!


零細映画会社「アクセルピクチャーズ」の小さな社屋。

変わり者の監督の、映画グッズだらけの仕事部屋のデスクには、半分だけ残ったワインが大切に仕舞いこまれている。

監督に「Part.2」「Part.3」の構想があるからには、あの映画はまだ終わらない。

のちに名作と呼ばれることになる三部作が完成し、あの日の少女を交えて乾杯が出来るのは、まだもう少しだけ未来の話――