◆ Middle 01 ◆  「海の魔女」


 Scene Player ―― “光芒一閃”相浦 あとり



GM : 次のシーンで、

FZ : 全員死ぬから、

GM : ええ!?

高原 : 次のキャラを考えておいて欲しいんだけれども。



 違います。



GM : 研究者たちから会議室で薬についての説明を受け、話し合いをするシーンです。シーンプレイヤーは……高原はとりあえず研究者たちに呼ばれるけれど、あとりはどうする? さっきのあと、ついて来る?

あとり : ついていく。……や、ついていきたいって志願する。

高原 : 「難しい議論にはなるだろうが……君たちのように、これからを担うオーヴァードこそが聞いておくべき話だ。同行しなさい」

GM : ん。では、あとりがシーンプレイヤーです。高原も登場して。

GM : 場所は、いわゆる会議室。そんなに大きくなくていいけれども……6、7人の研究者たちが部屋の奥側、ホワイトボードの所で説明をしている。その向かい側、長い机のもう一方の短辺に高原の席。あとりはその隣かな。ちょこんと。

GM(研究者A) : 「……というわけで、まず常温常圧の環境下でのウィルス単体の無毒化、そのデータがこちらの……」



『治療薬』に関する研究者たちの説明の概要は次のようなものだった。


● ウィルスへの直接投与では、増殖と全ての活動を停止させ、分解を促すことが可能。


GM(研究者B) : 「ウィルスが生命であるかどうかは難しい所なので、殺滅という言い方は正確ではないのですが、実質としてはそれだと思って頂いて結構です」

 
● EXレネゲイドに感染・発症させたマウスへの投与実験も全て成功。

GM(研究者C) : 「侵蝕率は0%まで低下。その後は各種のストレスに対しても変化は認められず、オルクス由来の因子への暴露にも反応なし。一切のマトリクスシフトを起こすことがなくなりました。ワーディングエフェクトに対しても、発症履歴からくる多少の精神耐性のみがわずかに認められ、身体反応は未発症のマウスとほぼ同じ。これについては図9のグラフをご参照ください」

高原 : 「……。(何も言わずじっと聞いている)」

GM(研究者A) : 「並行が有効な治療法の研究など、できることはまだまだありますが……(興奮を隠し切れない明るい声で)何と言っても、やはり待望の発見であり! 希望の軸となるものと申しあげてよいと思います」

高原 : 「(冷静な声音で)マウスたちの行動に変化は?」

GM(研究者) : 「投与後の侵蝕率低下の間、しばらく深い睡眠に入りますね」

高原 : 「EXレネゲイドに感染したものの細分化は微妙な所もあるけれども、衝動は」

GM(研究者C) : 「誘発しうる各種の要素を与えてみましたが、脳波・心拍・血圧その他、全く変化なしです」

高原 : 「……素晴らしい。」

GM : 宮永が嬉しそうにあなたに頷きます。

GM(宮永) : 「この薬を、我々は“シー・ウィッチ”……人魚姫の海の魔女と名づけました」



 海の魔女。

 人間になりたいと願った人魚姫に、薬を渡した登場人物。



GM(研究者B) : 「これからは少し規模の大きな臨床データが必要になります。……ので、そのう、ぶっちゃけた話になりますが……」

高原 : 「マウスを離れたいと」

GM(研究者A) : 「それもあります。あとその……予算面ですね」

高原 : 「(うなずく)」

GM(研究者B) : 「段階的な治験のための人員の募集や、他支部の施設の協力を仰ぐことも必要になります。広く協力を募るため、可能ならばできるだけ早く日本支部に掛け合っていただければとっ」

GM : 研究者たちはひたすら純粋に嬉しそうです。

GM(研究者C) : 「UGNに大々的にこの事を報せれば、皆さん喜んでくださるでしょう」

GM(研究者B) : 「何と言っても我々研究班の究極目的ですからね……!」

GM(研究者A) : 「まさかこんなに早く実現するとは思わなかったです。宮永さんの懸命な研究と、斬新なアイデアのおかげです」

 
● カウンターレネゲイドを利用したものである。

高原 : 「……カウンターレネゲイドを?」

GM(宮永) : 「はい」

GM(研究者C) : 「宮永さんが、ラボの関係で、日本支部からの指令系統で担当している対抗種持ちのチルドレンさんがいまして、そこからヒントを得て、協力してもらったんです」

GM(研究者B) : 「カウンターレネゲイドの、『オーヴァードだけを』傷害し、非発症者には無害である性質に注目して……」


 ● カウンターレネゲイドを無害化し、レネゲイドに感染・発症した細胞のみに影響するという『選択性』だけを利用して、安全・確実に作用する薬剤を作ることができた。

GM : 目的の駅まで行き着いて入り込める乗り物があるから、そこに薬を載せる、という感じ。

FZ : ほうほう。

高原 : 「……この研究は続けられて然るべきだし、また予算も上げられて然るべきだろう。しかし、この研究の社会的な立場はまた少し難しいものになるな」

GM(研究者たち) : 「……?」

GM : 研究者たちは、手放しで喜んでくれるとしか思っていなかったのか、一瞬「あれ?」という感じでぽかんとします。

あとり : 「人体実験……ていう話、ですか」

高原 : 「もう少し違う」



FZ : そこらへんで出ようかな。侵蝕率上げて……《猫の道》でホワイトボードの裏あたりから「あ、まずい、へんなとこ出た」

GM : (笑)いいよ。イージーエフェクトね。

FZ : 「失礼します。つまり支部長、私のような者が戸惑ったり、そういうこともあるわけですね」サイバーレッグからうぃんうぃん駆動音をたてながら。

GM(研究者C) : 「あ、おつかれさまです」

FZ : 「治療薬ができたと聞いて帰ってきたのだが」……いいかな?

高原 : うん。ブラックドッグの代表者として参加して欲しいということもあって、私がメールで連絡したということで。

FZ : 「治るというのは良いことだと思うんだ。だが」

GM(研究者B) : 「え、ええと?」

FZ : 「つまりだな。ブラックドッグの発電細胞とかも無くなるわけだ」

GM(研究者B) : 「そう……なりますね。マトリクスシフトが起こらなくなるので、少なくとも発電を行うことはなくなります」

FZ : 「ふむ。そうすると、その電力で動いているわたしのサイバーレッグなんかが」

GM(研究者たち) : 「……あ」

GM : 盲点、という感じであなたの足を見ます。少し間があったあと、気の強そうなひとりが口を開く。

GM(研究者A) : 「……し、しかしそれは、いつかは起こる……こと、で。(気まずそうに口ごもる)」

高原 : 「世界が正常に戻っていく――まあ、私たちが過ぎてきた20年より過去のことを『正常』と言うとすればの話だが――正常に戻った姿が、足のない渡辺であり、腕のないブラックドッグであるならば。そういう姿が『正常』であるときに、『異常』にとどまることを選ぶ人もいるかもしれない」

FZ : 「私自身がそういう体であることは置いておくとして、そういった者が、例えば」



 ぱちん。

 静かに座っていたあとりが、胸の前で小さな手を合わせた。



あとり : 「支部長、フェイタルゾーンさん。まずは、喜びましょう。この研究が実を結んだこと」

GM : 研究者たちがあとりを見ます。

あとり : 宮永さんの表情を見ます。

GM : びっくりしてぽかんとしていたのが、あとりのほうを見てちょっと安心したように。

あとり : 「研究者さんたちの研究の賜物がこれで、成果がついに実を結んだ。レネゲイドウィルスに対する有効な治療薬が一つ。まだこの先も色々とやらなきゃならないことはあるにしても」

GM(研究者C) : 「それは……そうですね」

あとり : 「たくさんデータを取ったりだとか」

GM(研究者B) : 「はい。そのためにも多くの協力が必要で……そうなると、我々研究馬鹿がどうこう言うより、政治的な手腕のある方にお願いしていく段階になります」

あとり : 「(うなずく)だから、まずは喜びましょう」

FZ : 「……そうか。そうだな」

高原 : 「霧谷雄吾に協力は申請します」

GM(研究者B) : 「はい……」

高原 : 「UGN全体に影響するほどの規模の研究成果です。それだけにこそ、あまり外部には漏らさないように」

GM(研究者たち) : 「えっ」

高原 : 「例えばですね。別の支部の研究員の人と連絡を取ったときに、こういうことがあったんだ、と伝えるようなことは少しまだ待って下さい」

GM(研究者A) : 「しかし、……皆、待ちに待っていたことでしょう?なぜ……」

あとり : 「ファルスハーツです」

GM(研究者) : 「え?」

あとり : 「彼らはレネゲイドを治療することをよしとしません。もしここでその情報が漏れて、皆さんの命に危険が及んでしまったら。そしてせっかく実を結んだ治療方法が失われてしまったら、取り返しのつかないことになってしまう。だから」

GM(研究者C) : 「あ……情報統制、ということですね」

あとり : 「(うなずく)彼らには、これを知られるわけにはいかない」

GM(研究者たち) : 「あー……」「やっぱり、アンプルを貴重品入れに入れたりとかはやめないとな」「うん」

FZ : 入れてたんか!(笑)

高原 : 「施設の拡充はしてもらえるように連絡を取ります」(笑)

GM(研究者C) : 「お願いします」

高原 : 「皆さんの中で、世に名前が出るのを良しとしない方は今のうちに申請を」

GM(研究者たち) : 「はは、それは」



 あとりの機転で、ようやく空気が緩んだ。



高原 : 「そうだね。相浦くんの言ってくれたとおり、……素晴らしい研究成果だ。皆さんは、研究に邁進して下さい。その他の、私や皆が心配しているようなことは…またどこか別の所の問題として片がつくかもしれない」



 研究者たちは頭を下げ、ホワイトボードの掃除を始める。



高原 : 「……一つだけ突っこんだ話をすると」

GM(研究者B) : 「はい」

高原 : 「UGNが目指しているものは、『オーヴァードと人間の共存』で、治療が共存の一手段になるかはまだ分からない」

GM(研究者たち) : 「え、っ!?」

GM(研究者A) : 「……それは、どういうことですか」

GM(研究者B) : 「レネゲイドの治療が、……遠いものだったとはいえ、我々の究極目標だったのではないんですか」

GM(研究者C) : 「共存も何も、治療することができるなら……」

GM(研究者A) : 「共存は、治らなかった場合を想定しての『手段』でしょう?」

高原 : 「治療薬が、不和を招くことがあるかもしれないという話です。……端的に言ってしまえば、誰からどんな順番で接種するのかということ」



 高原は静かに説明する。



高原 : 「オーヴァードは超人です。全ての人が治ったあと、例えばソラリスピュアブリードがひとり残ったとしたら、――彼にどうやって対抗する。……まあ、そういうことについても、UGNにはある程度のノウハウはありますが……ある程度、の。そういった、投薬の仕方であるとか、そういうことも考慮に入れて話し合ってゆかなければならない」

GM(研究者A) : 「……力を、失うわけにはいかない。そういうことですか」



 気の強い研究者のひとりが高原に噛みついた。



高原 : 「一般論の話をしています。そう懸念するオーヴァードもいうるという話です」

GM(研究者) : 「ですが、それは……自分は力を保ちたいなどというのは、UGNの望むことでは、望んでいいことではないでしょう」

あとり : 「それも、ファルスハーツや他の敵対組織のことを考えると、ということです。それに、世にたくさんいるオーヴァードの」

高原 : 「(うなずく)UGNに所属していない、イリーガル……あるいは、UGNが把握していないオーヴァードについても」

GM(研究者B) : 「しかし……しかしそれはそれこそ、いつか必ずぶつからねばならない問題で!」

高原 : 「そうですね。……それこそ、もっと先のことだと思っていたんです、皆。だから、ここに来てこうして慌てている」

GM(研究者C) : 「そう……なんですか」

高原 : 「皆さんの薬は、……無駄にすることはしません。その薬が救いになるオーヴァードも必ずいる」

GM(研究者A) : 少し苛立った目を向けて「…支部長は。ご自身は治療を望まないということですか。その口振りは」

高原 : 「…………」



 空気の軋む音が聞こえそうな、長い沈黙が落ちた。



高原 : 「…難しい問題ですね。この力があるからこそ出来ることもある。その薬をもし私が使うとしたら、それは……『最初』にか、『最後』にか……どちらかになるでしょう」

GM(研究者B) : 「オーヴァードの方は、UGNの仲間であれ、そう…つまり、『自分はいま力を失うわけにはいかない』と考えるということですか」

高原 : 「オーヴァードでなければ対処できないことがある時に、」

GM(研究者A) : 「それを盾に、自分の力は捨てない」

高原 : 「そう取られるおそれがあるからこそ、『最初』に、あるいは、と言いました」



 研究者たちは、他のふたりにも視線を向ける。



あとり : 「あの、私……難しいことは分からないんですけれど」



 断って、あとりがいくつか質問した。回答は以下のようなものだった。



 ●ラインさえ作ってもらえるなら、大量生産は可能。

 ●未発症者の体内にあるウィルスも駆除できる。

 ●ジャームについても、レネゲイドの治療自体は可能。だた、それまでの段階で破壊されてしまった体組織などがある場合は別の治療が必要になる。


あとり : 「…私も、怖いのは、治療を望まない人たちがいるのではないかということ。そして、その人たちが自分の持つ力を悪用しはじめたらどうなってしまうのかって」

GM(研究者B) : 「そういう人に対しては、銃弾に込めるなり吸入で効果が出るようにするなりできるように、治療薬の濃度や形態を変える研究を進める必要がありますね」

高原 : 「UGN規模で動き始めれば、エージェントに、そういった反抗的なオーヴァードへの投薬の任務が発生するわけだね」

GM(研究者B) : 「はい、戦闘部隊の皆さんにも協力を仰ぐことになると思います」

あとり : 「そうすると、その戦闘部隊の人たちはまだ治療を受けられない」

GM(研究者C) : 「……あ」

GM(研究者A) : 「でも、だからといって誰にも打たないでいたら、永遠に治療なんて始められないじゃないですか!」

あとり : 「じゃあ、どうするんですか!」

高原 : 「(あとりを押しとどめて)ごく単純な話にするなら。治療できる者から治療を行い、ファルスハーツなどの相手には戦闘を通じて投薬を行い、しかるのちにUGNの戦闘部隊が自らの力を失っていく。そういう物語が描けますね。ごく単純な話にするならば」

GM(研究者C) : 「そう……なりますね」

GM(研究者B) : 「確かに、そういった政策面のことについては、作戦を立てうる上の立場の方にお願いすることになると思います。けれど、それと同時進行で」

高原 : 「研究は進めておきたい」

GM(研究者A) : 「はい。それこそ、どこか外部に漏れてしまったり、消されてしまったりする前に」

FZ : 「ふむ。……支部長。進めるべきだ」



 腕を組んだままのフェイタルゾーンが言った。

 考えて、高原は静かに口を開いた。



高原 : 「……薬の研究は進めます。予算も申請します」

GM(研究者A) : 「そして、外部に向けての説得力のため、早期に治験を受けてくださる方を募って頂けますか」

高原 : 「新薬を開発するときには、その病気で苦しんでいる人の中から協力者が出ることもある。探してみましょう。何にせよ、ひとりもいないということでは困るでしょう」

FZ : 「そうだな。説得力の面で言うなら、ブラックドッグでいま体に何か機械を入れている者とか」

高原 : 「日本支部から斡旋があればそれもよし。あるいは…この市内からでも」

FZ : 「支部長。最初の治験者は、この支部内から出すべきだ」

高原 : 「その場合は……私が出る。力がなくなっても、頭がなくなるわけじゃない」

FZ : 「まあ、それはおいおい考えよう。とにかく、広く募ってしまうと、UGN内部に入りこんでいるスパイからどこかに情報が漏れる」

GM(研究者B) : 「そのあたりの調整については、お願いします」

高原 : 「霧谷雄吾とも話し合う」

GM(研究者A) : 「ありがとうございます」



 頭を下げて、研究者たちは、セキュリティにあまり気を使っていなかったらしい研究室を何とかしに慌てて戻っていった。



高原 : 「ファイアーウォールを大事にな!」

GM(研究者たち) : 「支部長がファイアウォールだって」「え?」

高原 : 「ちゃんと閉めるんだぞ!ファイアーウォールを!」

FZ : うーん、扉みたいなもんだと思ってる……

高原 : 少しタイミングを逸していたけれど、一連の流れでフェイタルゾーンにロイスを取りたい。

あとり : 宮永洋平にロイスを取る。

GM : OK。

高原 : 感情は……有為/隔意で取るね。

FZ : かくい。

高原 : 「渡辺さんって呼びたいんだけどな……」

GM : 隔意!(笑)

あとり : こっち宮永には誠意/不安。いま不安が表。

GM : 了解。