◆ Middle 02 ◆  「いばらのお城」


 Scene Player ―― “フェイタルゾーン”



GM : 次は……フェイタルゾーンがシーンプレイヤーです。同行者指定する?

FZ : 同行者で出るときって?

GM : GMとシーンプレイヤーの許可が必要なの。



 結局、登場は全員。場所は続いて会議室。研究者たちが帰って、PC3人が残っている。

 あとりがイージーエフェクト《偏差把握》で室内に盗聴器がないか調べたいと申請。



あとり : 判定する?

GM : いや、判っていいよ。それらしきものは無い。その代わり、把握の仕方は、それっぽい「形」と「動き」をするものはない、っていうのでいいかな。電子機器的にどうにかできちゃうと、ブラックドッグの《電波障害》がかわいそうかも。

あとり : うん。

GM : 会議室内は、熱気のかたまりだった研究者たちが帰ってガランとしてしまいました。蛍光灯は明るく点いたまま、向こう側のホワイトボードには彼らがぐるぐる色々書いて説明した字や図を消した跡がわずかに残っている。君たちの手元には、先ほど渡された資料。

あとり : 「――迂闊すぎます、ふたりとも」



 あとりが静かに言い放った。



高原 : 「ん……、まあ、しかし、彼らにとっては研究成果かもしれないが、」

あとり : 「そうです。彼らにとって……きっとあの人たちは、自分たちのここで生きる意味はそれだと……そう思って研究を続けてきたんです」

高原 : 「(うなずく)…そういう人もいただろう」

あとり : 「あるいは、中には…レネゲイドの力やジャームに殺されてしまった家族を持った人がいたかもしれない」

高原 : 「…………。」

あとり : 「だから、私たちがオーヴァードの力を出してジャームと戦うように、あの人たちは……治療薬を見つけることで、戦っているのかもしれない」

FZ : 「……。うん。そうなんだろうな」

あとり : 「あまり、挫かないであげて下さい」

高原 : 「それでも、どこかでその目線のずれを知る必要はあった。私たちは、ジャームと戦っている。だが、彼らの研究は……オーヴァード全体と戦っている。…この差はわりと深い」

あとり : 「……。」

高原 : 「私たちは、昔のヒーローのように、全ての悪が――仮にレネゲイドを悪と言ってしまうならだが――全ての悪の根がなくなった時には、宇宙へ向けて、この星をこう、飛び去っていくとかな。それくらいの正義の味方であれたらいいなあとは思っている。……思ってはいるが。……難しい」



 沈黙。



高原 : 「(声をやや明るくして)…いやまあ、しかし。確かにあまりに早すぎた。取り乱してしまった感は否めないな。――すまない。ありがとう」

FZ : 「そのあたりは助けられたな」



 あとりはやや恐縮して、俯くように頭を下げる。



あとり : 「……正直な所、言ってしまえば、私は…オーヴァードの力を失っても別段困ることはない、から」

FZ : 「意外だな。チルドレンがそれを言うとは思わなかった」

あとり : 「だって、それは……そう、あの、だから『私は』なんです」

FZ : 「?」

あとり : 「私よりもっと、ずっと早くからUGNにいた『チルドレン』の子たちは、オーヴァードとしての経験とか知識とか、そういうのしかない子が多いです」

FZ : 「ああ…」

あとり : 「自分にできることがなくなった時に、どうしていいか途方にくれる。きっとそんな子がいっぱいいる」

FZ : 「そのへんはこう、悪かったなーと思ってる大人もけっこういると思うぞ」

あとり : 「それに、さっきお話にありましたよね。ブラックドッグの人たち」

FZ : 「いや〜、足が動かなくなったから足にサイバーレッグを入れたわけだよ私の場合」

あとり : 「そういう人たちは、不便な義足や義手で過ごすことになる」

高原 : 「その人たちが、まあ、これでオーヴァードのいない世界になるんだからよかったね、この不便さも、仕方ないことだ、と受け入れてくれたら嬉しいし、彼らも衝動には苦労しているだろうから受け入れる人もいるだろう……が、」

あとり : 「それに、ノイマンの人たち。今まで考えられていたことが、突然考えられなくなる。さらに言えば……ノイマンの人って、ウィルスが頭の中に回路を作るんですよね?……その回路がなくなった時に、その人本来の回路はどのくらい残っているんでしょう」

FZ : 「(腕を組んで唸る)」

あとり : 「そういうことがあるから……あの場では言いませんでしたけれど、治療されること全てが良しとは私も思えません」

高原 : 「……相浦くん」

あとり : 「はい」

高原 : 「能力がなくなっても別に困りはしない、と言ったね」

あとり : 「はい」

高原 : 「もう少し積極的な気持ちとして、オーヴァードから人間に戻りたい……君たちの世代は、『戻りたい』というより『なりたい』かもしれないが……なりたい、と、思うかい」

あとり : 「……。――思います」

GM : おお。……しかし彼女の場合、周囲の人間がそう思うかどうかは分からない。

高原 : 将来有望!

GM : ちょう有望。将来のUGNに必要な人材だと。

FZ : 「チルドレンの場合、物心つく前からオーヴァードになった子供もいるわけだ。オーヴァードになる前の自分というのを、そもそも持っていないかもしれない」

あとり : 「きっと、そういう子が多いと思います」

高原 : 「……あれだ。UGNの仕事と言うのは、けっこうしんどい仕事なわけだ。レネゲイドと四六時中自分の中で戦わなくてはならないし、殺人が絡むことも割とある。それは、心にとてもストレスになる」

FZ : 「まあ、な」

高原 : 「現状では、休暇はあっても『辞める』というのはなかなか難しいだろう。もちろん引退したオーヴァードというのはいるけれど、それはUGNのエージェントあるいはイリーガルとして動くのを辞めたというだけであって、オーヴァードを引退できたわけではない。次の人生……戦いの次に来る人生を、治療薬があれば歩むことができるかもしれない」

あとり : 「……。」

高原 : 「それはね、なにも私たちのような、30過ぎたいい大人に限らない」

FZ : 「まだまだ若いですよ」

高原 : 「いやーほら、相浦くんからするともうダブルスコアなわけだから!」

FZ : 「くっ……!」

GM : (笑)

高原 : 「私はね。チルドレンにもそういうのがあっていいと思うんだよ」

FZ : 「なるほど?」

高原 : 「UGNの方針的に、チルドレンというのはこう戦闘一辺倒に育てられることが多いが。データ的に」

GM : こら(笑)

高原 : 「そんな中で、ちょっと休んで3年間学校生活やってみたいなーというチルドレンもいるかもしれないし、いてくれたら嬉しいなと私は思ってる」

FZ : 「ふむ」

高原 : 「私たちは人間のために戦っているし、私は、こうやって戦うことを20代の時に自分で選んだ。その歳ごろには、何かしら皆、選ぶ時だしね。就活なんかで。……チルドレンは、――いま、最年長でちょうど20歳か――チルドレン以外の生き方というものを、現状、なかなか選びづらい。でも、治療薬があれば……そっちに行ってもいいんだぜ、と背中を押してやることはできるかなと思っているんだ」

あとり : 「……。」

高原 : 「3年『普通の生活』を演じて、こんなのは仮初めだとずっと思っているよりは。この生活が良かったらこの生活のほうに行くこともできるんだって、こう……思っているほうが、いいような気がする」

FZ : 「むむ」

高原 : 「……まあ、そんなのも理想論だ! 結局、治る人と治らない人がいると、選民を生むから良くない!」

FZ : 「まあ、そうだな」

高原 : 「だから、オーヴァードが人間に対して平等であるためには、誠実であるためには…… すべてのオーヴァードが失われるべきだ。……だが、そこまで『人間というもの全体』と『オーヴァードというもの全体』を考えて行為できる人は、うーん、いない!」

FZ : 「それで思い出した。最近何かと話題の『レネゲイドビーイング』っていうのは、どうなんだ?」

あとり : 「レネゲイド……なんですよね?彼ら」

FZ : 「治療されるということは、死ぬことになるんじゃないのか?」

高原 : 「レネゲイドをウィルスととらえるなら、そうなるかもしれない」

あとり : 「能力を失っても、存在することは出来……る?」

FZ : 「うーむ……」

高原 : 「もしも、本当にすべてがもう何もかもすっきり20年前どおりになる手段があるとしたら、こう、ひとつぽちっと押したら全世界のレネゲイドが死滅し、あとに人間だけが残されるというスイッチだが……そんなスイッチはない!」

FZ : 「そこまで秘密裏に進めるのは無理があるな」



 考え込む3人。



FZ : 「……支部長。我々がこのあたりの議論をしても始まらない。今するべきは、日本支部長への協力要請と、現在の葉山市内の敵性組織の動きを改めて把握しなおすことだ。研究が漏れると困る」

高原 : 「(うなずく)それと、最初の治験者を出すこと」

FZ : 「それについては、名乗り出そうなのの心当たりがあるが」……汐ってこの支部の管轄?

GM : いや、施設の場所は隣の市。あと、管轄は多分日本支部じゃないかな。施設のみの特殊な支部っていうやつ。

高原 : 「とりあえずこの支部にはオーヴァードは我々4人だからな」

FZ : 「ここには“人魚の鉄姫(メタルマーメイド)”がいないが……彼女については“光芒一閃(ブライト・ナイト)”のほうがよく知っているだろう」

あとり : 「え、あ」

FZ : 「先日、彼女の妹さんに会った。重度のカウンターレネゲイド発症者でな。隔離されているんだ。……その彼女の治療のために、自分を使ってくれと言い出すかもしれない」

あとり : 「妹のために、……自分を?」



 自分に重ねて想像するあとり。うつむいてしばし沈黙する。



あとり : 「でも、たとえば……妹さんが保護されているのは、お姉さんがオーヴァードだからだとしたら……」

FZ : 「ゆ、UGNに対してかなり悪いイメージを持っていないか?」

あとり : GM、衝動判定していい?(笑)

GM : この妄想っ子!(笑)胸の中でうずっとは来るけど、衝動判定まで行かなくていいよ。

FZ : 「支部長、妄想がやばい」

高原 : 「まあ、そうそうレッテルを貼るものじゃない。確かにUGNにはそういう一面もある」

あとり : みとめた!(笑)

GM : えええ!(笑)

高原 : 「まあ、その……でも私はそういうことはしないから安心しろ!(背中ばしばし)」

あとり : 「いえ」

FZ : 「そういうことじゃないだろう!」

高原 : 「想像もせんかったわ!(笑)」

FZ : 「妹さんがいるのは色々守秘義務のある施設でな、ここから西に向かって車で行ける距離だ、そう遠くない。内海鞠もちょくちょく会いにきている」……あれ俺守秘義務守ってなくね?

高原 : 「大丈夫だ。私はこう見えて口は堅い」

FZ : 「頼みますよ支部長」

高原 : 「任せておけ!でも《止まらずの舌》とか言われたらどうなるかまったくわからない」

GM : ああああ(笑)

FZ : 「……確か“リヴァイアサン”は優秀なソラリスピュアブリードだったと記憶しているんだが」……電話越しでも効くよね?

GM : 登場してるわけだからね(笑)《タブレット》で射程のばせば、「ルール的には」いけるね。

高原 : 大丈夫。攻撃を受けたらリアクションとして《復讐の刃》が使える。

GM : なにやってんの!?

高原 : 「ッア”ーーー!!(拳)」

全員 : (笑)

GM : リアクション放棄してるから《止まらずの舌》は通るんだよね?

高原 : うん。

GM : しゃべらされながら殴りかかるの?

あとり : しゃべらされはしたけど聞いたおまえはしぬみたいな。



 この後PCたちは次にするべきことを絞り込んだ。



 ● UGN日本支部への協力の要請。

 ● 市内の敵性組織の動きの把握。

 ● 最初の治験者を決める。


FZ : 「……そういえば」

高原 : 「なんだ」

FZ : 「私は、例の施設で、内海鞠と一緒に宮永氏に会っているんだ」

高原 : 「宮永さんに?」

FZ : 「ああ。内海汐の医者として。鞠と宮永氏は知り合いのようだったから、もしかしたら彼女は、既に治療薬のことを聞き及んでいるかもしれない」

あとり : 「……」

FZ : 「そうすると何か変な問題が発生するかもしれないから、できるだけ早めに彼女を見つけたほうがいい」



 やること追加。



 ● “人魚の鉄姫(メタルマーメイド)”内海鞠を探す。


高原 : 「治験者については、仕事の引き継ぎの準備をしてからになるが、基本的には私が出る」

FZ : 「支部長……」

高原 : 「私はキュマイラ・ピュアブリードで、肉弾戦要員はどこの支部にもいるし、補充がかなり利く。何より私は……なくなるものは筋肉だ。あと毛並みだ(笑う)」

FZ : 「いや……正直私が一番いいと思うんだ」

高原 : 「……その心は?」

FZ : 「人としての生き方を知ってるからな」

高原 : 「まるで私が知らないような!」

FZ : 「そういうわけじゃない!(笑)……あんたはUGNに必要な人材だと言っているんだ」

高原 : 「……、」

FZ : 「少なくとも、UGNがこうだったら、という視点からものを考えている。今日これまでの推論だけ見てもそうだ」

あとり : 「……そして、身体をブラックドッグの機械に置き換えた人間が治療を受けることで、何が起こるのかを示すことができる?」

FZ : 「そうだな。こういう人間が率先して治療を受ければ説得力も上がるだろう」

高原 : 「……渡辺」

FZ : 「おぅふ!(奇声)」

高原 : 「あ、ああ。すまん、フェイタルゾーン」

FZ : 「はい。(気が済んだ)車椅子生活を送ることになるだろうが、まあ何とかなるだろうと思っているしな」



 もう一つ追加。


 ● 治験者を決めるための情報として、各自、

  自分がオーヴァード能力を失った場合にどうなるかを分かる限り調べる。


FZ : 「……お。そうすると私はとりあえずフェイタルゾーンではなくなってしまうのか?」

あとり : 「そうですよ」

高原 : 「非オーヴァードでもコードネームを持つ者はいる。その時は私が何かかっこいい名前を考えてやる」

FZ : 「支部長のセンスか。期待していますよ!」

高原 : 「任せておけ! 今のところ考えているのは“ザ・セカンド・ワタナベ”だ!」

FZ : 「ザ・セカンド・ワタナベ!?」

全員 : (爆笑)

FZ : 「……支部長。しぶ……」

高原 : 「新たな渡辺、という意味だ!」

FZ : 「支部長、本名。本名バレてる!」