◆ エンディング ◆  「あしたの雲よ形見ともなれ」


 Scene Player ―― −



秘野森 : 何で【八岐】つかわなかったの!

GM : や、兵糧丸も2つあったし、まだって思ったんだよ。スペシャル喰らうと思わなかったんだよ!

ユヤ : あー。

GM : さて。これで陣営がいなくなったので、脱出側の勝利です。【時檻】は完全に解除されます。

シオリ : ……よし……。

GM : 清陵学園とは、彼が作った理想の学園でした。そんな学校はどこにもありません。



 静寂。


GM : ……全員が、元の時と世界に戻ってきます。場所は六分儀市。

ユヤ : わあ!

龍之助 : ぎゃー!



 一気に阿鼻叫喚。



 ……サイコロフィクション共通の公式ステージ、六分儀市。

 魔法使いやモノビーストの闊歩するこの街には忍者もびびる。



GM : 東雲公園の中に、君たちは立っています。ここで分かることなのですが、君たちが「月読を追え」という任務を受けてから、既に1年の月日が経っています。

PL : おおおお……!

ユヤ : ……繰り返して、……1年。

シオリ : うわ……!

GM : で。月読は倒れた状態です。死んではいません。とどめを刺すかどうかは皆さんに任せます。契兎もそこに現れますが、皆さんの側の陣営なので、手を出すことはありません。

GM(契兎) : 「……助かった」それだけ言って、月読を見下ろして複雑な表情ながら微笑みます。




GM : そしてこの瞬間、PC4の死亡が確定します。

ユヤ : 「じゃ、みんな……ありがとう。楽しかったわ」

GM : ふわーっと、魂が。

ユヤ : 「このまま静かに、眠らせて……」

龍之助 : 「――ユーヤ、ちゃん。そのお願い、聞けないって言ったよな」

ユヤ : 「!?」



 龍之助に応えるように、公園中に散り敷いたガラスのかけらが淡く輝いた。


GM : それは【時檻】への願いですか。

龍之助 : はい。

ユヤ : い、いいんだよ! シノビガミの復活とか望んで!

龍之助 : なんでだね!?

PL : (笑)

GM : では、願いを。

龍之助 : ……はい。

GM : シノビガミの復活ですか。

龍之助 : ノーー!!(笑)



 気を取り直して。


龍之助 : 「……秘野森」

秘野森 : 「ん?」

龍之助 : 「二股だけど、いいよな?」

秘野森 : 「好きにしろと言ったはずだ。……龍之助」

龍之助 : 「はは。よし」……ユヤちゃんの身体はそこにある?

ユヤ : 龍星群であちこちでかい穴でも空いてるんじゃないかな。でも、もう血は流れない。

龍之助 : じゃ、それに構わず抱き起こして。「次に皆で何かお祭り騒ぎする時があったら、……白雪姫でもやろうか」

シオリ : 「眠れる森の美女っていうのも、ありますよ」

龍之助 : 「それだ、シオリちゃん」――ユヤちゃんにキスします。彼女の復活を、望みます。

GM : 本当にそれでよろしいですね?

龍之助 : はい。

GM : 分かりました。その瞬間、残された破片が輝きを放って消え去り、……ユヤは復活します。

ユヤ : 「……!!!」ぼん! と真っ赤な顔で目覚めます。

龍之助 : 「(抱きしめる)」

ユヤ : 「りゅ、龍之助先ぱ、」

龍之助 : 「…………。(黙って抱きしめ続ける)」




シオリ : 「会長?」

秘野森 : 「なんだ」

シオリ : 「夢は、……見なく、なりそう?」

秘野森 : 「もうこれで見ることはないだろう。さすがに、1年も同じものを見続けたら嫌でも忘れられそうにはないが……」携帯を開くとGPS機能とかが一瞬にして同期を始めて、やれやれと。

GM : メールが450件届いています。

PL : (笑)

秘野森 : 月読の方につかつかと歩いて行きます。

GM : お。

秘野森 : 息も絶え絶えな彼の懐にがっと手を突っ込んで、秘伝書を。

龍之助 : 「……いいのか、秘野森」使命的に。

秘野森 : 「倒すには、倒した」

GM : 剣呑な空気を契兎が察して、「……命だけは、勘弁してやってもらえないだろうか」

秘野森 : 「これが、僕たちが受けた任務だ。秘伝書の奪還」

ユヤ : 「1年越しで、忍務って有効……なのかな」

秘野森 : 「分からん」

龍之助 : 「時間が切られてない限り、忍務果たすまで帰って『来るな』って言われんのが常だ」

シオリ : 「遅いって、怒られるでしょうけど。死んだと思われてるかも」

秘野森 : 「抜け忍の処分は、抜けられた流派が行うものだ。だから……」

ユヤ : 「会長……?」

秘野森 : 「僕からはこれだけだ。……水波カオル」

GM(月読) : 「……」

秘野森 : 「生徒会補佐官の任を、剥奪する。……あとは好きにしろ」



 秘野森は立ち上がり、振り向くことなく龍之助とユヤの元に戻った。

 だが、シオリはその背を追わず、ひとり月読を見下ろしていた。



シオリ : 「会長。私も剥奪、してもらえる?」

秘野森 : 「残念ながら、それはできない。会計がいなくなっては話にならない」

ユヤ : 「……一緒に行きたいの?」

シオリ : 「約束したの。二人で歩くって」

龍之助 : 「はは。俺は、シオリちゃんがいた方がよかったんだけど」

シオリ : 「どこにいたって、……大丈夫」

ユヤ : 「そっか。……そう、なのかな」

秘野森 : 「剥奪は、しない」

ユヤ : 「会長、」

秘野森 : 「仕事がたまって、片づけられなくなる前には、帰ってくるんだ」

シオリ : 「……(笑って)了解しました」

龍之助 : 「よっしゃ!」

シオリ : 「その時には、補佐官、連れてきてもいいかな」

秘野森 : 「正式な役職のない者を生徒会に連れてくるには、補佐官という役割を与えるしかない。与えられる立場は補佐官までだ」

シオリ : 「……ありがとう」




GM : というところで、契兎がゆっくり近寄ってきます。

秘野森 : 「諸星くん」

GM : シオリの手を握って、笑って言います。「……この人のこと、よろしくお願いします」

龍之助 : うん!?

GM(契兎) : 「一時は、殺そうとまで思ったけれど……やはり、ほっとけなくて。……秘めた思いはそのままにしておきます」



 契兎……諸星真琴の【パーソナル秘密】は、ただひとつ開かれない秘密のまま終わっていた。


秘野森 : そっか、そうだよな!

ユヤ : 見ないであげてよかったかな(笑)……ダイス目って奇跡を起こすねえ。

シオリ : ほんとね。

秘野森 : 「諸星くん。君の庶務としての肩書も剥奪する」

GM(契兎) : 「ま、宿敵ですもんね」微笑む。

秘野森 : 「ああ。この男のために動いたのだろうが……いるべき場所に戻るといい」

GM(契兎) : 「ええ、そうします。いるべき場所に、やるべきことをしに戻ることにします。感謝してますよ、あの狂った世界から抜けさせてくれたこと。とはいっても、次に会った時に手加減なんかはできないけれど」

龍之助 : 「……そういうもんだ。それでいい」

GM(契兎) : 「何はともあれ、あんたたちと戦うのは心の底から面倒そうだ。もう会わないことを祈ってます」あくびひとつして、歩き去っていきます。

龍之助 : 「やっと、家に帰れるな」

ユヤ : 「よかったねえ」

龍之助 : 裏側に【本当の使命】がなかった以上、家に帰ることはほんとに彼女の使命だもんな。

シオリ : あっ。

ユヤ : 地味に達成してる、あの子!(笑)



 そして。


秘野森 : 「これを、依頼主の元に届けたら。忍務は終わりだ」



 沈黙。


秘野森 : 「今後のことを相談しなければならない。……そうだろう、龍之助」

龍之助 : 「……ごめんな。秘野森。俺は行かなきゃいけない」

秘野森 : 「……」

龍之助 : 「俺は、『この4人』を守りたい。夢みたいだったこの関係を。敵対して壊れないためには、もう会わないしか方法はない。流派が違うことが確定した以上、もう」



 だが、秘野森は首を振る。


秘野森 : 「流派を超えた繋がり。それが……【血盟】だ」

ユヤ : 「宿敵だって、手を結べる」

龍之助 : 「え、っ」

秘野森 : 「そうだ。流派は関係ない」

龍之助 : 「……え、……俺、それでめっちゃ悩んでたんだけど!」

秘野森 : 「そうだろう。……血盟は通常、流派に秘匿して結成される。所属は関係ない」

龍之助 : 「……できる、のか」

秘野森 : 「そうだ。血盟に入ったら、また忍びの世界に関わることになるぞ」

龍之助 : 「……ああ。見つかった。見つかった……!」



 No.9の流儀は、「再び『忍びの世』に関わる理由を探す」こと。


ユヤ : 「あのさ、先輩」

龍之助 : 「うん?」

ユヤ : 「アタシ、あの世界で、初めて人を好きになったのよ」

龍之助 : 「ああ…… 人の世話ばっかり焼いて、自分の話全然進まないんだもんな、ユヤちゃん」

ユヤ : 「うん(笑)……ほんとに、いつも霊の相手ばっかりしてて、自分のことなんて考えたこともなかった」



 ユヤは穏やかな瞳で月読を見遣る。


ユヤ : 「だから、カオル君に少しだけ感謝してる。アタシをあそこに閉じ込めて、人を好きになることを教えてくれた。だから、ね。――ラブは流派を超えていいのよ!」

龍之助 : 「説得力あるな! ……そっか。じゃあ、俺もカオルに感謝しないとな」

ユヤ : 「うん」

龍之助 : 「……あー。俺、隠忍の血統抜けてきたすげえ古い時代のアレでさ。そういう新しいルール、全然知らなかったんだ」

秘野森 : 「ふふ」

龍之助 : 具体的に言うと2巻中盤のルール。

ユヤ : 狭いな龍之助!(笑)




 シオリは、そっと月読を抱き起こす。


シオリ : 「じゃ、行きましょうか。私の操り人形さん」

GM(月読) : 「ああ。……かっこわるいなあ」

シオリ : 「ふふ」

龍之助 : 「お前には過ぎたいい女だよ」

ユヤ : 「ほんとにねえ」

GM(月読) : 「……どうして、僕なんかと道を歩く気になったんだ。あの記憶は、約束は、……偽物だってのに」

シオリ : 「どうしてかしらね。……それを、これから二人で見つけて行こうじゃない」



 眼鏡をなくしたままの顔で、シオリは笑って見せた。

 微笑む澄んだ瞳は、恐らくこの場にいた者以外が見ることは生涯かなわない宝物。

 月読は、どこか吹っ切れたまなざしで空を仰いだ。



GM(月読) : 「いやあ、……いいさ。僕は今、心の底から満足だ。ここで今死んでも悔いはない。何だろうな、なぜだろう、壊されて、負けて、望んだ世界は崩れて、それなのに。今ほど、これほど満足した気持ちになったことはない。きっと僕は、……こういうのが欲しかったんだな」





 一年ぶりの本物の夜空が輝いていた。

 じき、夜が明ける。住宅街の背景が白む。



シオリ : 肩を貸して、立ち上がります。「じゃあ、……先輩方、すみません」

秘野森 : 「(うなずく)三好くん。水波くん。……また会おう」

シオリ : ぺこっとお辞儀して。

GM : 二人は去っていきます。

秘野森 : 「では、龍之助、天波くん」

龍之助 : 「……おう」

ユヤ : 「はいっ」

秘野森 : 「行こうか」制服を翻して、歩き出します。



 この夜、六分儀市の片隅で、小さな血盟がひとつ生まれた。

 今はまだ、夢の残滓。

 それでも、あの時信じたものを、夢からまことに連れ出すために。





 血盟の名は――「楽園」。