◆ Middle 08 ◆  「さるかに合戦」


 Scene Player ―― “フェイタル・ゾーン”



GM : では、フェイタルゾーンのシーンです。ちょっと緊迫したのにしてこう。(BGMを変える)

FZ : ほほう。

GM : 物語的にはこんな感じだけど、フェイタルゾーン自身はまだその情報を聞いていないから、それほど切羽詰まった感じじゃなくても構わない状況だね。

FZ : フンフンフフ〜ン♪

GM : いや、そこまででもなくていいんだけども。



 フェイタルゾーンは、所持している[乗用車]で汐のいた施設に向かう。



GM : では、例の施設の前にあなたの車は止まり……

FZ : 「さて。ジャが出るかヘビが出るか!」(侵蝕率ダイスを振る)1。

GM : 何も出なかった(笑)

FZ : 「フンフンフフ〜ン♪ ……ジャもヘビも蛇だ!!(ちゃぶ台返しジェスチャー)」

GM : ずかずか入っていく?

FZ : うん。「……さて。どうなることやら」

GM : 呟いて、閉鎖した病院のような建物の裏手に車を停め、地下に入っていくと、施錠できる自動扉の前、先日あなたが詰めていた守衛室の小窓から馬伏が顔を出す。

FZ : 「よう」

GM(馬伏) : 「おー、渡辺! どした? また代わってくれんの?」

FZ : 「それでもいいんだが、少し用事があってな」

GM(馬伏) : 「おお、どうしたどうした」

FZ : 「ここに今、内海鞠は来ていないか?」

GM(馬伏) : 「鞠ちゃん? 鞠ちゃんは来てないよ」

FZ : 「ここ数日では?」

GM(馬伏) : 「えーっと……(ノートをめくる)一昨日? 寄ったな、お見舞いに」

FZ : 「私がここにいたのは一週間前のことだから……あの時よりは最近か」

GM(馬伏) : 「そうな」

FZ : 休みを申請する前日。

GM : そうだね。

FZ : 「それで……内海鞠『は』いない、と言ったな。別の誰かがここにいるのか」

GM(馬伏) : 「ああ、うん。別に変わった人じゃないけど、宮永先生が来てるよ」

FZ : 「……担当医、だったか」

GM(馬伏) : 「うん。ちょっとなんか話が長引いてるみたいだけど……(時計を見る)あれ、30分くらい経ってるなあ。何やってんだろ」

FZ : 「そうか。宮永先生……こちらにいたか」

GM(馬伏) : 「うん?」

FZ : 「……いや、な。宮永先生が立ち会ったほうがいい実験があるので、探していたようなところがあってな。少し、話させてもらえるか」

GM(馬伏) : 「OK、OK。じゃあ、開けるよ」

FZ : 「頼む」

GM : 守衛室から出てきて、ドア下の鍵を開けます。「そういえば、汐ちゃんが喜んでたよ、お前のこと。楽しかったって」

FZ : 「そうか。喜んでもらえたなら良かった」

GM : ロックの解除されたドアは馬伏の重みで開きます。



FZ : 「――馬伏」

GM(馬伏) : 「うん? なに、付き添う?」

FZ : 「いや、やめておけ」

GM(馬伏) : 「やめ?」

FZ : 「……何があるか、分からないんだ」

GM(馬伏) : 「え、え? な、……何! ジャームとかなんか来るの?」

FZ : 「可能性はある」

GM(馬伏) : 「えー!」

FZ : 「何かがあったら逃げろ」

GM(馬伏) : 「……え」



 短い沈黙。



GM(馬伏) : 「……い、一応俺、ここの責任……」

FZ : 「分かっている。だが、一般のエージェントがジャームに出会ったときの対処は何だ」

GM(馬伏) : 「う……あ、ああ、そっか、お前は覚醒したんだっけ」

FZ : 「果敢に立ち向かったりしたら、私のように死にかかって覚醒することもある。ろくなことはないんだ。安全に覚醒するならまだともかく、お前がジャームになって、友が減るのはかなわん」

GM(馬伏) : 「…………。わ、かっ……た」

FZ : 「まあ、念のためだ。何もないかもしれん。何かあったら逃げろよ。……ああ、ここは開くようにしておいてな。私だってダッシュで逃げたくなるかもしれん」

GM(馬伏) : 「ああ、うん」

FZ : 「私もダッシュで逃げてきた時、しまった! 馬伏がいないからドアが開かない! とかはちょっと勘弁してほしい」

GM(馬伏) : 「そういう時はドア割れよ! いいよそこまでの事態になったら!」

FZ : 「攻撃手段がないんだ。分かってくれ」

GM(馬伏) : 「えええ!?」

FZ : 「攻撃能力が私にないんだ」

GM(馬伏) : 「お前ほんとに覚醒したの!?」

FZ : 「覚醒したよ! サポート系にな!」

GM(馬伏) : 「なんでフェイタルゾーンなんて物騒な名前なの!」

FZ : 「かっこいいだろう」

GM(馬伏) : 「なんかすごいフェイタルな……致命的なゾーンを作り出して、はーはははお前の命はもうどうのこうのっていうんじゃないの?」

FZ : 「違う違う。仲間にとって」

GM(馬伏) : 「仲間にとって致命的なゾーンを張るの!」

FZ : 「ちがーう! 仲間がこう、フェイタル的な力を持つの!」

GM(馬伏) : 「お前なんでひとりで来たの!?」

FZ : 「何があるのか、まだ分からんのだ。調査だ、調査」

GM(馬伏) : 「逃げろってのは、万が一、なんだな?」

FZ : 「そうだ。万が一何かが起きたら、私のことは気にせず逃げろ」

GM(馬伏) : 「ああ……いつもながら、歯がゆいな。……気をつけてな」

FZ : 「大丈夫だ。……お前のその気持ちもよく分かる」



 フェイタルゾーンはとりあえず、「宮永 施設にいる」と高原にメールを入れる。



GM : では、中は先日来た時と同じ。掃除はされているけれど、やや薄暗いリノリウムの廊下をあなたは歩く。
左右には、使われていない部屋。ドアはほとんどは締め切られている。
半開きになっているドアの中には、ダンボールが積み上げられていたり、また別のドア……一番奥よりも一つ手前のドアの中は、ガランとしていて、雑誌がいくつか散乱している。




FZ : 「……可能性はあるか。(銃を取り出す)」

GM : 不意打ちを警戒しながら進む。
近づいていくが、異常はない。何もない。最初に来た時と同じ。
……ガラスの窓の向こうにも、誰もいない。

FZ : 「(舌打ち)……こいつは、やられたか。さあ、どうする……もし、あの時のように……いたら!(窓にベタリとはりついて下を覗きこむ)」

GM : (笑)……そこには、畳まれた絵本が何冊かきれいに積みあがっていて……それだけ。汐の姿はない。

FZ : 「つ……。あのドア以外に出口がないとすれば、犯人はひとりか。どこへ行った……」

GM : 探してみる?

FZ : 自分の《猫の道》で、このエフェクトの所持者ならどこから出られるだろうって考えられる?

GM : それだと、正解にはたどり着けないけれど、ひとつ別のことに気づける。あれ、オルクスにとってはここ、隙だらけだな? って。汐は多分、逃げようと思えばいつでも逃げられた。けれど、ここでの生活に特に不満がなかったのと、UGNを信頼していて、自分の意思でここにいたんだろう……ということ。

FZ : 「誰かにそそのかされて、出て行った……のか」

GM : と思って中を見たなら……〈知覚〉。

FZ : あと2回ある。

GM : ?

FZ : 「あー、もしもし!」

GM : それ([組織の助力])か!(笑)

高原 : (昔の同僚)「あ〜ん? なんだ、フェイタルゾーンか!」

FZ : 「うん、ちょっと今探し物をしているんだが」

高原 : (昔の同僚)「あ〜、お前よく物なくすもんな! 携帯か? 鳴らそうか? この携帯でいいのか?」

FZ : 「お前自分が何言ってるかわかってる!?」

高原 : (昔の同僚)「いいか、俺たちは組織という名の仲間同士だ。俺たちには十人十色の探し方って奴がある。今から教えてやるからその中で一番お前に相応しいと思うものを選べ!」

FZ : 「分かった、聞きながら探すからとりあえず教えろ」

高原 : (昔の同僚)「ひとーつ!『とにかく捨てろ』」

FZ : 「押し入れ片付けてるわけじゃないんだよ!」

高原 : (昔の同僚)「わかった! すぐに行くぜ。人海戦術だ!」

GM : 来るって。

FZ : 待て! おかしいおかしい!!



 来るのはやめてもらい、〈知覚〉の判定に[Dロイス:組織の助力]を使って判定。



FZ : 17。

GM : 高いよ! ……では、電話越しに『そういう時はな』とか『それならその上を見てみろ』とか誘導してもらって……窓の中の部屋の、向かって左側の壁面に、何かが這ったような跡があるのに気づく。ちっちゃい手のひらと足が、ぺた、ぺた、ぺた、と四つん這いでのぼったような。

FZ : そうして、その上の窓から。

GM : そう。のぼった先にある、斜めになった窓の鍵を開けて出て行ったかな、と。窓は閉められているけれど、一個だけ、施錠されていない鍵がある。

FZ : よし、そこから私が出る。……どうやって?

GM : 窓の高さは床から4m近い。

FZ : 何かしら、壁を歩く能力があるんだろうな。ダッシュで戻って車で追おう。……30分か。追いつけるか?

GM : 宮永が、馬伏に会った後、何分くらい汐と話していたかによるけど、30分フルで逃げ続けているわけではないんじゃないかな。

FZ : よし。そうだよな。「――さあ。追えるか?(ネクタイをきゅっと直す)」

GM : 連絡は入れる?

FZ : 入れよう。そして宮永達の痕跡を追うために、追跡で……あ、追跡って技能無い。

GM : ないね。その代わりになりそうなものとしては、あの窓の外側を〈知覚〉で調べるとか、あるいは〈情報:噂話〉で目撃証言を集めるとか。

FZ : なるほど。まず支部長に連絡を入れる。「内海汐、施設脱出。恐らく、宮永洋平が共にいる」とメール。






FZ : 「馬伏」

GM(馬伏) : 「! どうした渡辺! け、怪我したか!?」

FZ : 「私は怪我はしていない。だが、問題がある」

GM(馬伏) : 「どした!?」

FZ : 「内海汐が。……脱出した」

GM(馬伏) : 「は!?」

FZ : 「天窓の鍵を開けて、そこから出て行った。おそらく宮永と一緒だ」

GM(馬伏) : 「え、なんで……え!?」

FZ : 「何を吹き込まれたかは分からん」

GM(馬伏) : 「吹き込むって……だって、お医者さんだよ!? 宮永先生」

FZ : 「――馬伏」

GM(馬伏) : 「なに!」

FZ : 「察せ。理由があるんだ。こういった事件には、必ず理由がある。そして、お前がそれを得てはいけない情報もある」

GM(馬伏) : 「う……」

FZ : 「だから、お前はお前の仕事をしろ。上に連絡して構わない。ただ、そうだな……対象は私が追う。それも付け加えて報告しろ」



 沈黙。うつむいてくっと拳を握った馬伏、どこかやりきれない表情で笑う。



GM(馬伏) : 「……もう、前みたいに、一緒に行って手伝ってはやれねえんだな」

FZ : 「……大丈夫だ。私が知らないことで、お前が知っていることは多い。その時は、私はお前に電話する。私が知らないことを、お前が教えてくれればいい」

GM(馬伏) : 「〈唇を噛んで顔を上げる。強くうなずく)分かった。……こっちは、しっかり報告入れる。あと……何かそっちの市の事情があるんなら、変な横槍が入らないようにもしてみる」

FZ : 「よし。助かる」

GM(馬伏) : 「行け!」



 背中を押されるように階段に向かうフェイタルゾーン。去り際、振り向いて馬伏を指さす。



FZ : 「お前も――私の大事な“助力(バックアップ)”だ」

GM(馬伏) : 「……任せろ」



FZ : うなずいて外に出て、車に乗る。この後は、足取りの調査なり追跡なりが行いたい。

GM : そうだね。では、このシーンでまだ情報収集判定を打ってないから、とりあえずそれを打っていいよ。

FZ : いいか。さあ、最後の[組織の助力(バックアップ)]だ!



 フェイタルゾーンは、宮永と内海汐の足取りを探る〈情報:噂話〉の判定を行う。

 どっちへ走りながらやればいいか思いつかなかったため、

 「とりあえず葉山市支部へ向かい、支部長と合流しやすくする」

 「宮永の行った方角が分かったら、そっちへ方向転換」という指針になった。



FZ : [情報収集チーム]も使おう。「さあ、葉山市中の情報提供者たち!私の指示に応えて目撃情報を集めるんだ! ……あー、もしもし、おばちゃん?」

GM : この期に及んでそんな演出!?

FZ : (ダイスを握りながら)意外と近くにいたりしてな、宮永。

GM : まあね、えーと……

FZ : 轢いちゃうかもしれない。

GM : そんな近く!? メートル単位!?

高原 : (おばちゃん)「大事なものはいつだって……後ろを振り返ればあるんだよ」

FZ : カッコイイこと言われた!

GM : じゃあ、後ろを振り返ると、汐が必死に走ってついてきています。

FZ : おかしいだろ!?

GM : ぺたぺたぺたぺた、四つん這いで。

FZ : 四つん這いかよ、怖いよ!

GM : 同じスピードで。

FZ : 怖い!! 車だぞこっち!

高原 : ぺたぺたぺたって足音はするんだけど汐の姿は見えない。

FZ : なんでホラーになってんだよ!! ダイス振らせろよ!



 やり直し。



FZ : 2回まわった!……30!

GM : 何だそれ!? ……じゃあもうこの1回でいいや、えーとね、

FZ : お、なんかが短縮できたっぽい?

GM : 情報が集まりきるの自体にはそこそこ時間がかかり、君の車は、これはもうどっちへ向かうにしろ支部に寄って、高原を拾ってっちゃった方がいいな、という所までは来ます。……ごめんね、クライマックスにふたり置いてけぼりするとちょっと淋しいから、ここはこうするね。

FZ : うん、うん。私がひとりで突っ込んでってもどうすればいいかよくわかんない(笑)

GM : あっちこっちから電話やなんやで連絡が入ってきて、目撃情報がどんどん集まっていく。

FZ : あ、運転しながら携帯電話してる……

あとり : 銃刀法は改正されたけれど、道路交通法は改正されていない!

GM : かもしれない。

高原 : 免許持ってれば携帯しながら電話してもいいってなってるかもしれない。

GM : 令はあるけど律はないかもしれない。

FZ : なに、律令政治まで戻っちゃったの!?



 このステージでは戻りません。



GM : 次から次へと連絡が入る。「久しぶりだな渡辺。まあその話は後だ、例の車を見た人が……」「すまん渡辺、止めることはできなかったがナンバーは控えた」

FZ : よし、よし。

GM : そして最後の電話。「もしもし」

FZ : 「もしもし、私だ」

GM : 「渡……いや、フェイタルゾーン」

FZ : 「――馬伏か」

GM(馬伏) : 「ああ。目撃情報の全部のポイントを地図と照合して書き込んでみた。送るぞ」

FZ : 「よろしく頼む。助かる」

GM(馬伏) : 「続きは頼む。“フェイタル・ゾーン”」

FZ : 「もちろんだ。……任せろ」

GM : 電話を切るや、地図の画像が送られてくる。施設の周辺から西へ向かって光点が散っている。西東京の、南側に葉山市があったね。そのすぐ西に例の施設はあって、そこからさらに西へ、西へ」

FZ : 「ふむ、ふむ……これは、」

GM : 多摩川沿い。上流へ向かっています。

FZ : 「多摩川上流だと? ……川に流すつもりか!?」

GM : 達成値30を出しているので、もうひとつ行きます。地図の画像を下へスクロールしていくと、馬伏がマウスで書いたんでしょう、荒い赤字で書き込みがあります。――『小河内ダム』」

FZ : 「ダム!? ……なるほど。川に流すどころか、飲料水に流す……か!」

GM : そう。水道専用ダムとしては世界最大級、東京の水の供給を支える大ダム。一見、利根川水系の方がメインに見えるけれども、あちらのダムはいくつもに分散していて、ひとつでここまで大きな規模を持つものはない。

FZ : 「……こうすることで、東京にいるオーヴァードは、かなりの数が“人間”に戻る……それが狙いか」支部長を迎えに車を走らせるスピードを上げる。

GM : では、一旦シーンを終えます。