◆ Middle 12 ◆  「うさぎとかめ」


 Scene Player ―― “フェイタル・ゾーン”



GM : シーンプレイヤーはフェイタルゾーン。君が運転席のドアを開けたちょうどその時、高原がビルのエントランスから出てくる。

高原 : 夜気の饐えた臭いに、くん、と獣の嗅覚を利かせて……

FZ : 「支部長、宮永の行き先が分かった」

高原 : 《獣の直感》で。「……魚たちが、騒いでいる」

FZ : 「流石だな。……ダムだ」

高原 : 「――飲み水、か!」

FZ : 「そうだ」

高原 : 後部座席をガッと開けて、あとりを放り込んで、

FZ : そんなに広くないぞ。向こうっかわのドアにガッてぶつかったんじゃないのか今。

あとり : ごん。

高原 : ばちゃん! とドアを閉めて、あとりの頭が半分くらい出てる。

GM : なんて!?

FZ : グロい!!

高原 : 助手席に乗ってバン! とドアを閉めて、

FZ : 荒いなもう。

高原 : 「命に別状はない」

FZ : 「いや、今!」



 やり直し。



高原 : ……あとりを後部座席に寝かせて、助手席に乗って、ガチャンとドアを閉める。

FZ : 「時間が無い。出すぞ」

高原 : シートベルトをガチャっと締めて。「内海くんは」

FZ : 「……見つからなかった。ただ、宮永と“塔の上の姫君(ラパンゼル)”は一緒だ」

高原 : 「……そうか」

FZ : 「利用されているだけなら、まだ……救い出せるはずだ」

高原 : 「相浦くんも、じき目を覚ますだろう」

FZ : 「その。薬は投与したのか?」車を走らせながら。

高原 : 「宮永さんが、すり替えていた」

FZ : 「すり替えていた?」

高原 : 「ああ」

FZ : 「……彼女に投与されたのは、“シー・ウィッチ”ではなかった?」

高原 : 「ああ。実際は、ただの麻酔剤の一種だ」

FZ : 「ふむ」

高原 : 「詳しいことは私も、専門家ではないから分からないが」

FZ : 「今、奴はダムに、本物の“シー・ウィッチ”を撒きに行こうとしているわけか」

高原 : 「意図してか、そうでないかは分からないが……恐らく彼は、治療薬では“ない”ものを作ってしまった」

FZ : 「それは、何だ」

高原 : 「……ぼろぼろになったマウスが発見されたという。そして、研究所のケージに入っていたマウスたちは、はじめからEXレネゲイドに感染させられてはいなかった」

FZ : 「感染・発症していたマウスたちは、“シー・ウィッチ”を打たれて、ぼろぼろになった」

高原 : 「(うなずく)恐らく、全滅した」

FZ : 「だとすれば、つまりそれは」



高原 : 「……カウンターレネゲイドから作られた……オーヴァードにとっての毒薬だ」



GM : では。運転の判定になります。〈運転:四輪〉、あるいは何かしらチェイスに役立ちそうな判定に成功することができれば、先行した相手の車に迫ることができるものとします。

FZ : 分かった。《猫の道》で、〈RC〉で判定!

GM : OK。

FZ : 最短ルートを取るために、猫の道を通りながら走る。

GM : 分かった。相手を追い越してしまわないように、何度か普通の道路に出て行きながら、ショートカットを繰り返す感じでいいかな?

FZ : うん、それで。

高原 : 「代わるか?」

FZ : 「いや、道が見つかる。――見つけられるはずだ!」(ダイスを握る)

GM : おおおっ。

FZ : ……〈RC〉2レベルなんだけど。〈調達〉のが高いんだけど。

GM : この一般エージェント上がり!!(笑)

FZ : だって、判定が[自動成功]のエフェクトばっかりなんだよー!……あ、《コンセントレイト》もない。

高原 : 大丈夫!

FZ : (ダイスを振る)10でた!やった!……2回回った!31!

GM : すご! ……よし、じゃあステージをひとつ戻そう。

FZ : あ、間に合うっぽい!?



GM : では、フェイタルゾーン。道なき道、あるはずのない道を何度も潜り抜けて……

FZ : 「次は……ここだ!(ハンドルを切る)」

高原 : 「崖だぞ!」

GM : 崖!?

FZ : 「行ける!」ジャンプ!

高原 : 「そうか、この崖は行けるのか。覚えておこう」

GM : いや、君には行けない!!(笑)

FZ : 「支部長、忘れろ!」(笑)「私か……内海鞠でなければ行けない」

高原 : 「そうか、これがオルクスの能力……《ナイトライダー》か」

FZ : 「や、違う」



GM : 何度かそうして出入りを繰り返していると、ある時、先ほど君の知人が教えてくれたナンバーの車が。まだかなり距離は離れているけれど、道路の先を走っているのが目に入る。200mくらい先。……あれ、遠いな。ナンバープレート見えない?

FZ : 一応車のライトはつけてるけど……

高原 : 《猫の瞳》。「ライトを一度消してくれ」

GM : うわ! 持ってた!!

FZ : 「了解」がちっとライトを消す。

GM : おーー!

高原 : 「番号を読み上げるぞ!」

FZ : 「分かった!」

高原 : 「練馬73」

FZ : 「ねり……練馬ナンバー!? 練馬ナンバーなの!?」

高原 : うん……

GM : 何でわざわざ葉山市って名前付けた!!

高原 : ほんとだ!

GM : 何で練馬から車来た!

あとり : 葉山ナンバーはないんか!



 練馬ナンバー、不評。



高原 : 「練馬73、ぬ47−XX」

GM : 練馬ナンバーは通しなの!?

FZ : 「それだ。あの車だ!」がちっ。

GM : ライトを消して、また点けて。それに相手が気づいたのか、急にアクセルを踏み込み、スピードを上げて、傍らの横道に飛び込む。

高原 : 「行けるか!?」

FZ : 「行ける。同じ道……見えている!」……あ、適当言った。

GM : いいよ! 判定結果はもう出てるから、好きかってに勝っていいよ!

FZ : よし。適当言おう。「あの道よりさらに近い道を今見つけた!」とか言っていい?

GM : いいよ、いいよ。……その近道から飛び出した君の車は、彼の車と真正面から行き会う形になり!

FZ : え、そんなに頑張っちゃったの俺!?

GM : あわや正面衝突の数メートル手前、宮永の車がひどいブレーキ音を立てながら左手の道に滑り込む。

FZ : 「くそっ! 往生際の悪い!」

高原 : 「気をつけろよ。事故を起こせば、私たちはともかく、宮永さんは生きてはいないかもしれない」

FZ : 「なるほど。……支部長」

高原 : 「何だ」

FZ : 「《ワーディング》張ったら事故るかな」

高原 : 運転中に《ワーディング》をしてはいけません!(笑)

FZ : はい!(笑)



GM : では、そちらへこちらへとハンドルを切り……主に君の能力のおかげで、とんでもないチェイスが繰り広げられます。そのうちに……フェイタルゾーン、君は、宮永の取るルートが変わっていることに気づく。まっすぐ西へ向かっていない。ダムへ行くのは諦めたか?

FZ : 「……どうするつもりだ」

GM : 呟いて。……次にあなたが猫の道から飛び出したとき、

FZ : ギャッ。(ハンドルを切る)何故かこう、ブロック塀の中から。中から?

GM : ピクリともしないハムスターが。

FZ : どうするんだよその状況!?

高原 : (ハムスターを両手で包み込んで)「……渡辺……!(震え声)」

GM : えええ!(笑)

高原 : 「うおおおお!!何がオーヴァードだ!何がUGNだ!」

全員 : (爆笑)

FZ : やばい、笑いの沸点が下がってる(笑)

GM : でッ……では、一度は見失いかけるくらいのきょ、距離に、いたはずッ……

FZ : 大丈夫かー!

GM : 宮永の練馬ナンバーの車が!

FZ : 何で笑いを取りにくるんだよ!!

高原 : 「練馬73……間違いない!」



 全員、笑い過ぎて座っている位置がバラバラに。



 リセット。



FZ : 「どこへ……向かっている?」

高原 : 「何とか横に並べれば……あるいは、前に出られれば」

FZ : 「了解」

GM : スピードを上げて。

高原 : 車のドアのロックを外す。いつでも出られるように。

GM : わかった。……高原、さっきの《獣の直感》の、詳しい効果って何だっけ?

高原 : ええと、「獣の持つ鋭敏な知覚によって、わずかな気温や湿度の変化、あるいは地磁気や海流の変化などを読み取ることで、天候や地震などを予測する」だって。

GM : OK。……ちょっと拡大解釈気味だけど、それで感じ取ってもらっていいかな。

高原 : うんうん。

GM : フェイタルゾーンが「どこへ向かっている?」とつぶやいた時。あなたの直感が告げる。今しがた飛び込んできたこの道、この付近。地下深くを、一度地面の下へと潜った河が流れている。



高原 : 「……地下水? 地下深く……水の匂いがする」

FZ : 「……どのみち薬を流すつもりか!」



GM : ちょうどその時。フェイタルゾーン、君の車が角にさしかかり、

FZ : ギャギャギャギャッ。(ハンドルを切る)

GM : 軋むタイヤ。ライトの描く光の円がぐるりと横に移動して……ぱっと正面を向いた時。照らし出されたのは、あとほんの15mほど先にある宮永の車。そして、その先には行き止まり。

FZ : 「――!!」ブレーキーー!! あとりゴロゴロゴロ!

あとり : ごろごろぺしゃ。

GM : かわいそうなことするな!!(笑)

高原 : ぐっと腕を振り上げて、地面へ向けて、車の底ごと貫いて、錨を下ろすように拳を突き立てる!

GM : おお!……おかしな方向へ力が加えられたために、車はギリギリの所で止まる。これがなければ、追突・炎上していたかもしれない。それがあってもほんのギリギリ……こちらの車のヘッドライトの、もう本当に目と鼻の先、数cmの所に、宮永の車のテールランプがある。

FZ : 「危ないところだった。支部長……は大丈夫に決まってるから、」

高原 : 「結構痛いんだぞこれ!」

FZ : 「知らない知らない。……“光芒一閃(ブライト・ナイト)”!」一旦降りて、後部座席のドアを開けて、

GM : あとりを助け起こそうとしたところで……がちゃり、と。向こうの車の運転席のドアが開かれる音がした。――次のシーンで、クライマックスに入ります。