◆ Crymax 01 ◆  「塔の上の姫君」


 Scene Player ―― “光芒一閃”相浦 あとり


 ▼ Part.A ― 対峙




GM : では。あとりのシーン、ここからクライマックスフェイズです。

高原 : クライマックスフェイズのシーンでは、登場するPCはGMが任意に決定する。

FZ : 誰ひとりとして登場は許さん!

GM : この期に及んでマスターシーン!?



 全員登場になりました。



GM : 狭い、行き止まりの路地に2台並んだ乗用車。がちゃりと開いた前の車のドアの中から現れたのは、宮永洋平。いつもの白衣やスーツではなく、襟を立てたコートを着て、目深に帽子をかぶっている。

FZ : 「……!!」



 それは、紛れもなく、あの写真の、謎の男の。



GM : 車から降り立つと、ゆっくりと帽子を取り、コートを脱いで、運転席に放り込む。

FZ : 「あれも、貴様か……!」

GM : (うなずく)見慣れたスーツ姿の、くたびれた中年の男がそこにいる。高原、あなたの部下。UGNに、そしてレネゲイドの治療のために、ずっと尽くしてきた男。君が出てくるのを待つように、そこから逃げようとする様子はない。

高原 : 車の床を貫いたときに、右腕の、スーツの袖がぼろぼろになっているんだけど、傷ついているはずの手は、ジュクジュクと弱いリザレクトを始めている。

GM : おおお。

高原 : こちらもドアを開けて路地に降り立つ。

GM : すっかり、夜。秋の夜。風が高原の破れた袖をなびかせる。そちらの腕だけが、少しひんやりとして感じられる。

あとり : 私、術前術後衣なんだよね。

FZ : 「おい、“光芒一閃(ブライト・ナイト)”。無事か」

あとり : ふらりと起き上がって……鍵の開いている車のドアにがっと手をかけて、がちゃりっ、と。

GM : 無言。

FZ : 「ど、どうした」

あとり : ぬるりと外に出て……

GM : ぬるり。

あとり : そして、そのまま扉に寄りかかる。

FZ : 「まだ気分が悪いのか?」






GM : そろそろ駒を出そうか。位置関係を確認しとこうね。車がこうと、こう。各自、自分のキャラクターの駒、好きなのを置いてね。

高原 : はいな。

GM : じゃあ、もうちょっと周りの状況説明するね。2台の車が縦に並び、前方は行き止まりのブロック塀。

FZ : 行き止まり。

GM : 左側もブロック塀。その向こう側は、元は民家のスペースらしいけど、人が住まなくなって久しいのか、草ぼうぼうの木ぼうぼう。こぼれ落ちそうな緑が繁茂している。

高原 : うん。

GM : 右側は、工事現場の仮囲い。あとり、君の最初のシーンで出てきたような、薄い金属の板のようなやつ。金網ではなくて。それの背の高いのがあって、これも工事の途中で放置されたのか、あちらこちら錆びたり、白や黄色の塗料が剥がれたりしている。

FZ : 怖え……。

GM : 宮永はここ。自分の車のすぐ横ね。高原、君と宮永の間の直線上はちょうど車のトランクとかで低くなっているから、お互いを視認することはできる。




高原 : 「……探しましたよ、宮永さん」

GM(宮永) : 「逃げ切れると……思ったんですがね。(くたびれた笑み)……仕方ない」

高原 : 「あなたは。何を、作っていたんですか」

GM(宮永) : 「……治療薬です」

高原 : 「何から。……何を」



 宮永が顔を上げて高原を見た。眉尻を泣きそうに下げたまま、微笑んで見せた。



GM(宮永) : 「……支部長。……恨んでなんかいませんよ。うちの家内と娘は、仕方のない……ことだった。そう、仕方のないことだった。仕方のないことだったんですよね?」

高原 : 「……」

GM(宮永) : 「だから。だから死んだ。だから殺した。レネゲイドに発症してしまったあの時点で、あのふたりは……死んでいたんだ。――そうですよね?」

高原 : 「……。あれから……3年ですか」

GM(宮永) : 「ええ」

高原 : 「死者について語るときに、……3年前と、同じ言葉で語るのは。まだ、あなたの中で、彼女らは過去になってはいないということだ」

GM(宮永) : 「だって、だって本当のことでしょう。仕方がなかったんだ」

高原 : 「仕方のない死なんて、ひとつも、」

GM(宮永) : 「では何故! あんたはその、」

GM : と、あなたの右手……傷ついた拳。それは、3年前にふたりの血にべったりと濡れていた手だ。そこに宮永は目を落とす。もしかして彼の目には、あの日の赤がまだ見えているのかもしれない。

GM(宮永) : 「その手を、撃ち込むことができるんです。できたんです。……できるんです!」



 瞬間激した宮永に対して、高原はあくまで静かに答える。



高原 : 「私がもう、……人間ではないからでしょう」

GM(宮永) : 「(震える口端が吊りあがる。細い声で)……そうですよね。あなたもオーヴァードだ。――オーヴァードだ」

高原 : 「オーヴァードだからといって、人間でなくなるわけではない。人間味のあるオーヴァードもいます」

GM(宮永) : 「人間『味がある』だけです、人間じゃあない。もう、やられてしまったら、変えられてしまったら、仕方がないんだ。仕方がないから死んだんだ」

高原 : 「仕方のない死は、ない。私は、……私は私の生き方のために、あなたたち人間からは背を向けたところを、裏切りの符丁を背負いながら、長いこと歩いています」

GM(宮永) : 「……」

高原 : 「いいですか、正当化できることは何ひとつない。だから、彼らの死を、本当はひとつも仕方ないことだなんて思っていないのに、仕方ないと言うのは、あなたの欺瞞なんです」

GM(宮永) : 「じゃあ、何で死んだんです。じゃあ何で殺したんです! 仕方がなくはなかったんですか。何とかなる方法はあったんですか!」

高原 : 「道はありました」

GM(宮永) : 「……!」

高原 : 「辛抱強く、粘り強く、彼女たちを。生かしたままで、どうにか外の光を浴びせないようにしながら、例えば生け捕りにして、例えば拘束具を使って、UGNエージェントを大量に放り込んで、ずっと研究を続ける。そんな道もありました」

GM(宮永) : 「じゃあ、何で!」

高原 : 「それを選ばなかったのは、私です」

GM(宮永) : 「……支部長」

高原 : 「……大人の論理は、すぐに仕方ないと言いたがる。だから、私は本当は、大人のあなたにこんな大人の言葉で話したくはない。それでも」



 淡々と、高原は続ける。



高原 : 「……すべてのジャームを生け捕りにすることは、できない。ジャームに対する、長期的な……持続可能な対処というのは。――戦闘と殺戮。だから私はそれをやっている。けれど、その度に、立ち止まる契機はあるんです。その度に私は背を向けている」

GM(宮永) : 「慣れた、ってことですか」

高原 : 「……分かりません」

GM(宮永) : 「(震える笑いを含んだ声で)今まで何人、殺したんです」

高原 : 「……。数を、……言いましょうか」

GM : 宮永は流石に少したじろぐ。片足の踵が、半歩後ろにずり下がる。

高原 : 「これが唯一絶対の正答だとは思っていない。そして、そんなことは絶対に誰にも言わせない。……だから、私が殺すんです」

GM(宮永) : 「裏切りの……」

高原 : 「……(うなずく)」



 レネゲイドに侵されたバケモノ。同族殺しの裏切り者(ダブルクロス)。



GM(宮永) : 「……あんたたちには、どうだかは分かりません。研究の発表をしたときに笑ってくれなかったのも、――ああ、そうなんだな、と思いました。治療はどうとか、つきあい方がどうとか。あんたたちにとっては、レネゲイドはそういう相手かもしれない。ですけどね。我々非発症者にとっては、死の危険をもたらす恐怖の対象でしかないんですよ」

高原 : 「……」

GM(宮永) : 「いいですか支部長。レネゲイドはウィルスです。まあ、ウィルスのような挙動をするモノです。あなたたちのような人を、『発症者』と言いますね。『発症する』……そう。全世界に広がっていて、既にウィルス自体の蔓延を止めることは不可能で、予防法はなく、発症したら8割9割の人間が死ぬウィルス――と考えてください」



 研究発表の時のように、宮永はひとつひとつ説明を重ねる。



GM(宮永) : 「どれだけとんでもないモノか、分かりますね。扱う場所で言うならば、バイオセーフティレベル恐らく4。HIVよりはるかに上です。……治療。根絶。何に代えても。それ以外にどんな道がありますか。そんなものを、何故、後生大事に守って……抱え続けていくんですか、この世界は。発症者、その力を失いたくないあなた方の、数で勝っているわけでもないあなた方の、力が強いから、声が大きいから、残されているに過ぎない。これが死をもたらすウィルスとしての側面をはっきりさせて、一般の世界に知れ渡れば、オーヴァードの……一部のバケモノの人権のことなど、何も言ってはいられなくなりますよ……!」



 徐々に高くなる声。カギ爪のように指を丸めた手を胸の高さに上げ、宮永はなおも掻き口説く。



GM(宮永) : 「治療しなきゃいけない。もう治療しなきゃいけないんです。もう、深くに侵蝕されすぎている。入り込まれすぎている。乗っ取られすぎている。レネゲイドに、オーヴァードなんていう連中に、侵され乗っ取られかけている、その世界を癒すための、私が開発したのは間違いなく『治療薬』ですよ!」



 宮永の叫びが、狭い夜空に響いて消えた。



高原 : 「それが、……あなたの医学ですか」

GM(宮永) : 「あなた方を、恨むわけじゃない。辛いだろうとも思いますよ。悲しいですねレネゲイドは。けれど、だからこそ、誰かがやらなければならない。表向きの人権がどうのと言い出したら、ええ、いつになったって誰にも、」傍らの車の、後部座席のドアをガンガン! と叩きながら。

FZ : 「……その中に、“塔の中の姫君(ラパンゼル)”がいるのか」



 フェイタルゾーンが口を開いた。



FZ : 「あなたが利用した……“塔の中の姫君(ラパンゼル)”がいるのか」

GM : 彼の車のドアにはスモークがかかっていて、確かに中は見えない。そう言ったあなたのほうを宮永は見ると、

GM(宮永) : 「利用、ですか。そうですね、そういうことになるでしょう。それで構わない。でも、……今はもう彼女の、自分自身の意思ですよ」

FZ : 「……?(怪訝な顔。眉をひそめる)」

GM(宮永) : 「ね? レネゲイドは悲しいでしょう。辛いでしょう。だから。……あなたにしかできない、あなたにはできる。この悲しいレネゲイドの物語を、終わらせるつもりはありませんか、と。私は彼女に聞いたんです」

FZ : 「……」

GM(宮永) : 「彼女はうなずきましたよ。あれだけの能力を持つ彼女を、私が無理矢理に外へ引きずり出せるわけはない。部屋を出たのは、彼女の意思です。私はとっくりと話しました。そして彼女は納得したんです」

FZ : 「9歳の、他の世界を知らない少女に? とっくりと? ひとりの意思を教えたのか。……宮永先生。先生の言うことは正しい、そう信じている少女に、あんたは、自分の思想を植えこんだのか」

GM(宮永) : 「思想。そう、思想を理解させるのは無理でしたね。まだ9歳です、分かりやすいことしか分からない。だから、わたしは彼女に分かる事実を告げました」

高原 : 「……事実とは?」



GM(宮永) : 「君のお姉さんは、君の毒で死んだ、と」



高原 : 「……宮永さん?」

FZ : 「実験体に使ったな?」



 フェイタルゾーンが鋭い目を向ける。



FZ : 「治験を。本物の“シー・ウィッチ”で行ったな?」

GM(宮永) : 「ええ。マウスの結果だけでは……恐らく一度きりのチャンス、この、はじまりの一発の大きな爆弾を落とすには、少し不安がありましたからね」



 データも理論も全て嘘。治療薬の信憑性を持たせるための、膨大にして綿密な嘘。

 全ては、毒の爆弾をできうる限り広い範囲に投下するための。

 それで東京を混乱に陥れ、そしてその次には……



GM : 車に寄りかかっているあとり。……今、どちらを向いている状態?

あとり : 前。かな。

GM : では。……傍ら、右手の方向で、何か、ぼこぼこっ……という音がしたような気がした。



あとり : 「……白雪姫は」




 黙って聞いていたあとりが、静かに静かに口を開いた。



あとり : 「王子さまと。自分を助けた王子さまと、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。……シンデレラは、自分を見つけてもらって、結婚して、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」

FZ : 「……“光芒一閃(ブライト・ナイト)”?」

あとり : 「眠り姫は、王子様のキスで目覚めて、ずっと幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。……それなら、人魚姫は?」何かに引き寄せられるように、体がまっすぐに立つ。頭上に浮かぶ魔眼。

GM : おおっ。

FZ : 一瞬、引いて、思わず運転席に座り込みます。

GM : そうすると、あとりと宮永の間の視界が開けるな。

あとり : 上を見上げて。

GM : 目線の先、はるか空の上には月。いつの間にか高くに昇った、白い満月。その前景、月蝕を起こすかのように、重なって浮かぶ黒い魔眼。

あとり : 「……おかえり」



 一週間前と同じ口調で、姿の見えない友人に。



あとり : 「あなたは、汐ちゃんに、都合のいいことしか教えなかった」

GM(宮永) : 「……」

あとり : 「あなたは、彼女の毒じゃ死なないから」

GM(宮永) : 「そうですね」

あとり : 「彼女の毒は、私たちを殺す」

GM(宮永) : 「ええ。それを、何倍、何十倍、何百倍にも殺傷力を高めて作り上げたのが、……これです」懐から、一本のアンプルを取り出して。パキンと先端を折る。月光に、ガラスの中であの淡い青がきらめく。

GM(宮永) : 「大量生産ラインに乗せるところまでは、行って頂けませんでしたからね。切り替えた計画を完遂するために、少なくともひとりは戦力を削っていったはずなのですが。……早くお気づきになったようだ」

あとり : 「……」

GM(宮永) : 「支部長ですか?それとも、うちの班の誰かですか。彼女(あとり)を起こせると気がついたのは」

高原 : 「……きっかけは、一般業者からのクレームです」

GM(宮永) : 「……?」

高原 : 「特にレネゲイドに関与しているわけでもない、清掃業者です」

GM(宮永) : 「……ああー。参りましたね」

高原 : 「そこから、全てが動きはじめた。……意外ですね。レネゲイドではなく、社会のほうが私たちに電話をかけてきた」

GM(宮永) : 「それは、それは」

高原 : 「宮永さん。あなたと私は、とてもよく似ている。あなたのやり方は私のやり方だと言ってもいいくらいだ。ひとつの、例えば正義と言いましょうか。自分が進む道のために、一般道徳に背を向けて、殺しをやる。あなたが、それだけ内側に何かを持っているような、人間を殺しているような、悲しそうな顔で笑うのも、あなたが殺す私たちも人間であり、あるいは家族がいるかもしれないと知っているからだ」

GM(宮永) : 「……!」



 自分がどんな顔をしているか、気づいていなかった宮永は、両手で自分の顔を探る。



高原 : 「ひとつの成すことを見上げるとき、人は必ずもうひとつの正義には背を向けなくてはいけない。ひとつの光とひとつの光を同時に見ることはできない。光を見るときには闇に背を向けなくてはいけない」

GM(宮永) : 「であるならば、優先されるべき“正義”はこっちじゃあないんですか。侵蝕者は、侵略者は、あなた方のほうだ。私は世界を癒して! 病気になる前の状況に戻そうとしている!」

あとり : 「癒すために、その侵略者の力を借りたくせに?」

GM(宮永) : 「ワクチンというのは、何から作るかご存知ですか」

あとり : 「……鞠ちゃんは、どこですか」



 ぽつりと小さな、しかし有無を言わさぬ強い声。



あとり : 「魔女の薬を飲んで、どうにかなってしまった、人魚姫はどこですか」

GM : 視線を、あなたを誘導するように、ふっと仮囲いの向こうに遣る。

GM(宮永) : 「そうなんですよね。原料の血縁者だったせいか、彼女は、正確に言えば……死にませんでした」

高原 : 「……死ななかった?」

GM(宮永) : 「ええ。死ななかった、と言っていいでしょうね」

あとり : 「『命は』落とさなかった」

GM(宮永) : 「ええ。2本の足で砂浜を歩き続けて、痛みに苦しんで、苦しんで、苦しんで、暴れまわって。……そして、そうなったんですよ」

GM : 仮囲いの金属が、その表面が。全体が。沸騰した湯の水面のように、ボコボコボコボコッと沸き立つ。

高原 : 「……そこか!」

FZ : 「誘い込まれた。そういうわけか」

GM(宮永) : 「そう。そして私は……完成した“シー・ウィッチ”の詰まった、小さな子供の形の袋を持って……そうですね、あなた方が倒されたならば、悠々とダムへ向かうことができる。だめなら、ここで。『これ』(仮囲いの方を示す)に地盤を割らせて、地下水に叩き込むまでだ」

高原 : 「……宮永さん」

GM(宮永) : 「連れていきますか?」

GM : と。後部座席のドアを開け、おどけた身振りで、手のひらで、中の座席を示す。……誰か、行く?

あとり : 《偏差把握》。

GM : お。……そうだよね、できるね! ……後部座席には誰もいない。

あとり : 「誰を?」

GM(宮永) : 少し驚いた顔であなたのほうを見て、……そうか、と思い当たって、苦々しい顔をする。

あとり : 「舐めないで」魔眼が月の光を吸収して、足下にレーザーを叩きつける。

GM : うわっ! ……じゅっ、と、アスファルトがいとも簡単に焼けて、溶けたコールタールの臭いが風に流れる。

あとり : 「太陽じゃなくて、よかったですね。……でも、反射された光でも、集めればこのくらいはできますよ」

FZ : 「(溜息)……“塔の上の姫君(ラパンゼル)”をどこに隠した」

GM : 囲いの向こうを彼は見る。

FZ : 「姉に会わせてやった、とでも言うつもりか」

GM(宮永) : 「あなたがたにすぐに攫ってゆかれないように、車の中から《猫の道》でその中に入っていろと言ったんです」

高原 : 車のボンネットに、ガン、と乗る。そのまま、ガッ、ガッ、ガッとボンネットを渡って、向こう側に飛び降りる。

FZ : 「支部長」



あとり : 囲いって、どのくらいかしら。

GM : 高さは3〜4mくらい。で、横にだーっと続いていて……一辺30mって書いてあるな。

あとり : 囲いの中は[シーン]外なんだよね?

GM : ……あ、そういうことか!

あとり : (うなずく)[シーン]内なら、そこも《偏差把握》で把握できる。

GM : OK、では[シーン]内にしてしまおう。では、宮永の台詞を聞いたとき、あとりが囲いの向こうに感覚を向けると。中には……中にあるものの形が、色の無い状態で描かれる感じなのかな?

あとり : で、動いているものがあれば、そのベクトルが分かる。

GM : 了解。では、あとりの能力にかこつけて、囲いの向こう側の地形と言うか、状況を説明するね。30m四方の仮囲いの中に、約20m四方の、ビルの建設のかなり前半で投げ出されたらしい構造物がある。……

(俯瞰。赤茶の地面が仮囲いの中の面積) (建物部分、正面略図)

GM : まず周り。将来的に壁になる部分の芯として、指の太さくらいの金属の棒にデコボコをつけたやつ……異形丸棒、鉄筋ね、それが、数箇所の入り口部分を除いてビッシリと縦に突き立っている。下のほうだけは、横向きのも走っていて、チェック模様みたいになってる。

高原 : あー。

GM : 床部分は……まず地面と同じ高さ、足の触れる床ね、そこは、碁盤の目のように鉄筋が張りめぐらされている。おもち焼く網みたいなかんじ。鉄筋の隙間、チェス盤で言うと駒を置く所ね、そこは何もないから、鉄筋を踏み外すと落ちる。その面から50cmくらい下には、コンクリートが流し込まれて固まって、平面ができている。

FZ : ふんふん。

GM : 柱にあたる所には、柱の四角柱を作るように、縦の鉄筋が四角に並べられて、かなりの高さにそびえ立っている。それを束ねるようにして、鉄筋のフープが途中途中に巻きついている。
一番太い柱は、この、ど真ん中にある。……そのてっぺんに、小さな、ゆらゆらと揺れる物体の反応。



あとり : 「……放置された工事現場。中には……土台まで作られた建築物。中央に大きな柱。その上、動きのある小さな……小さな、……それでも、小動物ではない。9歳くらいの」

高原 : 「……ラプンツェル」

あとり : 「髪の毛を……垂らしてくれればいいのだけれど」

FZ : 「(呟くように)ジャーム化……」

GM : ジャーム化、という言葉に、少し遅れて宮永が反応する。

GM(宮永) : 「まあ、……侵蝕率は跳ね上がっているでしょうからね」

FZ : 「彼女にも投与をしたのか」

GM(宮永) : 「いえ。さっき言ったでしょう。子供の形の袋、だと」

FZ : 「……?」

GM(宮永) : 「彼女の体の中の体液を、……変えていっているんですよ。“シー・ウィッチ”にね。計算どおりなら、あと15分もあれば充分だ」

FZ : 「――時間稼ぎか!」

GM(宮永) : 「……はは。ははは」

高原 : 「……宮永さん。あなたが、医学科学には誠実な方で本当に良かった。……15分ですね」

GM(宮永) : 「……ふふ」

高原 : 「実際は、それよりさらに短い。その後のことを考えれば」

GM(宮永) : 「そうですね」

高原 : 「巻き込まれないようにしていて下さい。あなたではひとたまりもない」

GM : それには、彼はもう、笑うばかり。

GM(宮永) : 「私のことは。……殺してくれないんですか」

高原 : 「……あなたは、犯罪者ですがジャームではない」

GM(宮永) : 「そうですね。オーヴァードですらない。あなたには手が出せない」

あとり : 「死にたがりを殺すほど、支部長は暇じゃないんです」

GM(宮永) : 「……わかりました」



高原 : 「……宮永さん。殺すことで救われるものがあると、もしも本当に私が思っているのなら。……あなたを殺したでしょう」



GM(宮永) : 「……」

高原 : 「レネゲイドは悲しい。あなたも同じように悲しい。……私はそれが悲しい」

GM(宮永) : 「……いいんですか。私と話をしていて」

高原 : 「この件が終わったら、しばらくお休みになるといいでしょう。……もっと早く、そうするべきだったのかもしれない」

GM(宮永) : 「……」

高原 : 「けれど、時間は戻らない。ジャームがオーヴァードにならないように。この世界が、レネゲイドのなかった頃に戻ることはないように」

GM(宮永) : 「もう、解決したような口ぶりですね。……なるんですよ。なるんです。レネゲイドのない世界に、なるんです」

高原 : 「踏み越えていくことが最良の解答だとは、私は絶対に思っていない。だから宮永さん、本当に悔しい話だが、あなたのような人が必要なんです」ぎりっと歯を食いしばって、囲いの方へと歩んでいく。……宮永へのロイスをタイタスに変換したい。

GM : わかりました。では……

高原 : ……(ぱたんぱたんと膝をたたいて焦った顔)

GM : ど、どした!?

高原 : あ、あのね。あのね。ごめんね。結局“塔の上の姫君(ラパンゼル)”にはフェイタルゾーンしか会ってないから、彼にしか顔が分からないのね。私この向こう行ってもわかんないのね!

GM : あ……あー! だ、大丈夫、フェイタルゾーンも行くよね?

FZ : うん……(レコードシートをガン見)

GM : そっちはどしたの!

FZ : 内海鞠にロイスを取りたいんだけど、いきなりタイタスって取れるのかなとか、そもそもタイタスなのかなとか、悩んじゃった。

GM : あー、……ええと、



高原 : 今このタイミングで鞠にロイスを取るっていうのは、それは、もう“こうなった鞠”をきっかけに日常へ戻るロイスとして意識するわけだよね?

FZ : あー、うん。

高原 : ロイスは、要するに、感情が変化することによってタイタス化するから、『既に死んだ人にロイスを結ぶ』っていうことも、本来できると思うんだよね。

GM : そか、死とかの状況がある時に、必ずしもタイタス化する必要はないってあったし、だね。亡くなったあの人のためにも、自分はジャーム化するわけにはいかないとか。

高原 : 逆に、その後で、彼のあの死は実は、君を助けて死んだんじゃなくて、君を突き飛ばして自分だけ助かろうとしただけだったんだよ! って分かったら、なんだってー! ってロイスがタイタス化、っていうのはあるかもしれないけど。

GM : (笑)実は生きてた! でも一旦タイタス化するわけだよね。

高原 : 死んだと思ってたのに! ちょう損した! お前なんかもう知らない!(笑)

GM : 難しい所だけれど、面白いから今回はそれで行こう。

FZ : それじゃ、内海鞠にロイスを取得……同情/悔悟。



高原 : この期に及んで私はまだ内海くんに取ってなかったんだが取っていいですか。

GM : ぜひ取ってください。

高原 : わーい。……尽力/悔悟。今はポジティブの尽力。

GM : いいね。では、囲いの中へのシーンに移行……いや、さっきあとりの《偏差把握》の時に囲いの中もシーン内って言っちゃったから、このまま戦闘に移行しよう。戦闘に移るときに、必ずしもシーンを変える必要はないから。

FZ : 侵蝕率的に助かる!

あとり : ……衝動判定……

FZ : ……あ。

GM : だ、大丈夫! がんばって!