◆ Crymax 01 ◆  「塔の上の姫君」


▼ Part.E − 最終ラウンド



GM : せ、セットアップ。特にないね。ではイニシアチブ。最速はあとり。

あとり : [待機]。

高原 : 次は汐。

GM : 攻撃はもうしてきません。塔に転がり込んで、べしゃっと転んだまま、フェイタルゾーンの腕の下から彼を見上げて、



GM(汐) : 「……“すっとん、とん”」

FZ : 「……おむすびころりん、か。これは分かるぞ」

GM(汐) : 「…………、」

GM : 笑った顔がくしゃくしゃっ、と歪んで……瞳から、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちます。

FZ : 「これだ!(涙をつかんで)べちゃ!(床になすりつける)」



 (一瞬の静寂)



全員 : ……こらーーーー!!!

FZ : え? え?

あとり : ちょ……今!

高原 : 動きが! すっごい即物的だった!!

FZ : あっ。

GM : 王子ーー!!



 総スカン。



あとり : ……あのねえ! 何もなかったら泣かせろって言うつもりだったけど! まさかそんなことすると思わなかったわ私は!

FZ : ごっ、ごめん!!(笑)

あとり : なにが これだ! だ!!

FZ : ごめんなさい!

GM : 大不評だよ!?(笑)

あとり : 君の行動には!

FZ : はい!

あとり : 弁解の余地がない!!

FZ : はい!

あとり : 弁護のしようがないわ!!(笑)

FZ : あのね、あのね、さっきのヒントで、ウィルス的なものって聞いてから、この子いつか泣かねえかなーって

高原 : ずっと思ってたんか!(笑)ずっとそんなこと考えてたんか! 君のヒロインに!

GM : 感情ネガに変えていい!? むしろタイタスに変えていい!?(笑)

FZ : わああ! ごめーん! 勘弁して!(笑)り、リテイク! リテイクしてください!

GM : どこから!

FZ : 「これだ」から!

高原 : 泣き出すまさにその瞬間が欲しい。

FZ : うん!

GM : ……で、では、

FZ : ……ねえどうしよう、これだ! しか思いつかないんだけど!

あとり : コラァァァ!

高原 : 考えて!

FZ : う、うん!(考)

全員 : (待つ)

GM : ……でも、ヒロインの目から涙がこぼれてキラキラ〜ってなってポチャンって落ちるとそこからパァ〜、っていうのは、ベタ過ぎて私がイヤなんだけど。

FZ : ええ!(笑)

GM : 涙は予想外だった。殴らせるか薬ぶん取るか、流血させればいいだろうと思ってた。

高原 : なんでそんな殺伐としてるの!? 子供のとき少女漫画いちばん読んでるの君だよね!?

FZ : えーと、えーと、うーんと!

あとり : 考えて!

FZ : ハイ!

高原 : わかったわかった。じゃあ、真ん中取って、

FZ : うん。

高原 : 目潰し。

FZ : それ真ん中違う!!

GM : じゃあ今、キラキラ・これだ・目潰しって言う三択になったわけだけれども。

FZ : ろくな選択肢ない最後の方!

GM : お話の方のラプンツェルでも目潰しあるよ。されるの王子だけども。

高原 : (うなずく)茨の上に落ちて。

FZ : えぐいなおい!

高原 : じゃあ、フェイタルゾーンが……実情はこれ(べちゃ)的なことでも、ほら、涙の拭いかたなんて色々あるでしょう!

FZ : じゃ、じゃあ、「泣くんじゃない」と言ってこう……

高原 : ネクタイを。

FZ : ハンカチ持ってるよ! 社会人だよ!?

あとり : ハンカチだと吸っちゃわない?

FZ : だからそれをこう(床にべちゃ)して、

あとり : そのひとつの動作が全てを台無しにしてることにどうして気づかないかな!?

FZ : あばばば。ばばば。

GM : 考えて! 3人がかりで考えて!(笑)

高原 : だからそのハンカチでこう(目潰し)

あとり : ちゃんとやらないと汐ちゃん撃って流血させんぞ!

FZ : うわあごめんなさい! ちょ……ちゃんとやるちゃんとやる!

あとり : はい。

GM : はい。じゃあ泣き出したところまで戻って。

FZ : 「ちょ……近い近い。もうちょっとアゴを前に出せ」

あとり : くぁーー!!

GM : ブァーーー!!(叩く)

FZ : ぎゃーー!!

高原 : 私が考えようか!?

FZ : いや、あの、だっ……これけっこう難しくね!?

あとり : ていうかねGM!?

GM : ハイ!

あとり : キラキラにケチをつけるな!

GM : うえええ!?

あとり : そこは必要以上にひねろうと思うな!

FZ : ハイ!

あとり : あまつさえそこはウケを取ろうと思うな!!

高原 : いやいやいや、私はカッコイイの考えようと思えば考えられるけど放棄してるだけで。

FZ : 放棄されてたの俺!?

あとり : 途中がわやになっても最後はちゃんと決めるのが我々の流儀じゃなかったか! 何で最後の最後でこんなわやになろうとしてんの!

高原 : 大丈夫大丈夫、私現れる時ちょうかっこよくするから。

あとり : それ多分ひと段落ついた後だよね!?



 ひととおり叱られて、再度巻き戻し。



GM : じゃ……じゃあいいね? 泣くよ?

FZ : (息整え中)はい。

GM : では、汐が。しゃくりあげながらぽろぽろっと涙をこぼして……

FZ : 「……よしよし」と頭を撫でるくらいにしとこう。

GM : おー、まとまった!

FZ : いや、頭を撫でると少し下を向くことになるじゃないか。そうしたら涙が下に落ちやす

あとり : だーーー!!

GM : ばーーー!!!

高原 : しーーー!!

FZ : うん! もうよけいなこと言わない!(笑)

GM : じ、じゃあ、こう……大きな手に撫でられて、うつむいて目をしょぼしょぼ、ぱちぱちさせている。長い睫毛をつたって涙がぽたぽたっと……

FZ : 床に、

GM : 落ちるや、塔が大きくぐらりと揺れる!

FZ : 「む、いかん!(汐を抱きかかえる)」

高原 : 痛い。

GM : うん、痛い。

FZ : なんの、いまさらこれでくじけていては王子になれない!






GM : あとり。外から見ていると……塔を巻き上げた鉄筋の隙間から、所々中が透けて見えるのだけれど。何か青く光る小さなものが、塔の中心を貫いて落下していく。

あとり : 「……?」

GM : それが地面にぱしゃ、と触れるなり、そこを中心に、絡みあった鉄の大地がジューッと音を立てて焼け爛れ、融かされていく。塔は真向こうに倒れていき、大地の融けた穴が広がっていって……巨大な金属の花が開く中から現れるように、

高原 : ヤムチャポーズの狼が。

FZ : 現れる時かっこよくするって言ってなかったっけ!!

高原 : あ、ほんとだ。

FZ : ほんとだ!?

高原 : つい思いついちゃって。

GM : 間髪入れずに口から出すな!!



 リテイク。



高原 : [戦闘不能]って、意識はあってもいいんだよね。

GM : うん。アクションが行えない状態なら。

高原 : じゃあ……こう、融かされたクレーターの中心で、膝をついた状態にしようか。

あとり : 「物語とは、あべこべだけど……お腹の中から、狼を助けた」

高原 : にぃっ、と狼が口の端で笑って、「……当分は、あなたは“渡辺さん”だな」

GM : 支部長の姿が現れて、ちょっとほっとした一瞬の後。高原、君の頭上から一切の陰が消えて、ぽかりと月が現れる。

FZ : お。

GM : 支えを失った塔が、奥側に、ズズン! という衝撃と共に……

FZ : おおおお。GM、倒れる直前に塔を蹴って飛び出したりしてもいいか。

GM : いいよいいよ。では、

高原 : 月をバックに、

FZ : 汐を抱えて窓を蹴って、

GM : 獣化もなにもしてないから……

FZ : うん、ただの背広のおじさんが。ガシャーン! とサイバーレッグを地面に叩きつけながら着地する。

GM : では、その衝撃で最後の大揺れが起きて、……やがて静寂が戻ってくる。次の行動は?

FZ : 私だけど、充分動いちゃった気がするし、汐抱えてるから難しい。

GM : 何か、汐をくるめるようなものを持っていたら、くるんでいいよ。

FZ : (所持品欄を見る)……[情報収集チーム]?

あとり : サッ。

高原 : サッ。

GM : なにしにきたの!?

高原 : 防具は?

FZ : あ、それだ。[UGNボディアーマー]を外してくるもう。

GM : そっか。[マイナーアクション]で[装備]を解除、

高原 : [メジャーアクション]で汐をくるむ。かな?

FZ : それ。

GM : ちゃんと[装備]させるわけではないから、それでいいだろう。OK。

FZ : 「これでもう大丈夫だ」

GM : スーツの見た目は?

FZ : スーツ。背広の上着?

GM : じゃあそれを、かぶって、中から前を閉じます。




FZ : 「顔は出してていいんだぞ?」

GM(汐) : 「(首を振る)……“いないいない”」

FZ : 「いないのか」

GM(汐) : 「……“どんぶらこ。どんぶらこ”(しゃがんでアヒル歩きを始める)」

高原 : その様子を、動けないまま見ていて、ふっとあとりに目をやる。



GM : カメラ移動ありがとう。では、あとり。

あとり : 「……泡と消すことはできないけれど。……消すことはできる」

GM : お。

あとり : [マイナーアクション]特に無し。[メジャーアクション]〈RC〉+《黒の鉄槌》。“人魚の鉄姫(メタルマーメイド)”に対して、[とどめを刺す]を宣言します。

GM : わかりました。

あとり : ダイスは11個。クリティカル値は10。(ダイスを振る)……最大は8。技能を足して、達成値は13。

GM : こちらは判定できません。命中。

FZ : そのダメージロールに、《力の法則》。

あとり : どうなるの?

FZ : ダメージが4D10増える。

あとり : なんですって!?

GM : では、鉄槌……《黒の鉄槌》だけだとどういう演出になるの?

あとり : 魔眼がブラックホールそのものみたいになって、それを相手の上に浮かべる。

GM : 高原の近くになるのかな?

あとり : うん。真上。そこに“人魚の鉄姫(メタルマーメイド)”の……鉄筋だとか、ワイヤーだとかを、全て飲み込み、中で圧殺。(ダメージロール)41。



GM : 高原の周囲で、力を失って完全に固まっていたはずの鉄線や鉄塊が、バキ、バキバキッ……と音を立てて折れ、歪み、再び重力を無視して浮かび上がる。今度は、振り下ろされることはない。そのまま高原の頭上の黒い月に飲み込まれていく。

高原 : 「(魔眼を仰ぐ)」

GM : 最初は、金属が捻じ曲げられ、折れて砕ける凄まじい音がしていた。

あとり : けれど、その音さえも徐々に魔眼に呑まれていって、

高原 : 「……内海くん」

GM : その音は、まるで、あぶくのはぜるような切れ切れのかすかな音に聞こえ始める。そして、あとり。最後の最後。声をなくしたはず、人間としての発声器官はもうどこにもないはずの、金属に同化して、もうただのウィルスの塊でしかないはずの、……彼女の声が聞こえた気がした。細い声。



GM(鞠) 「――あとり ちゃん」



あとり : 「……。……ここにいるよ」



GM(鞠) 「……ありが と」



あとり : 「……」



GM(鞠)「汐を、……あり がと」



あとり : 「あの子は何も、悪くない」



GM(鞠) 「……あとりちゃん、も」

あとり : 「……?」



GM(鞠) 「……弟くんと、……はやく、あえるといいね」

あとり : 「うん、――会ってみせる」



GM(鞠) 「……学園祭、……がんばって、ね」

あとり : 「プリント、……渡せなかった」



 うつむく、あとり。



あとり : 「……ごめんね」



 沈黙。

 頭があったなら、横に振ってみせただろう。

 手のひらがあったなら、あとりの頬に当てただろう。

 何もないから、沈黙になった。



GM(鞠)「食販に、なった?」

あとり : 「(首を振る)」

GM(鞠) 「お芝居?」

あとり : 「……(うなずく)」

GM(鞠)「じゃあ、」



 穏やかに微笑んだ唇から紡がれるような声音。



GM(鞠)「わたしのかわりに、お姫さまをやって」

あとり : 「……。やってみる」

GM(鞠) 「……」



 鞠が笑ってうなずいた。

 そう、感じた。



GM : ……空の夜の闇。それより暗い、あなたの魔眼。月の他に明かりはなく、その中で、あなたには、ほんのりと緑色に淡く光る霧のようなものが、最後にあなたの周りを一周して、魔眼に飲み込まれていったように見えました。

あとり : 「……もう、いい。止まれ……(手のひらを魔眼にかざす)」

GM : 呟くと、魔眼は消え……

あとり : わかんないよ、消えるかどうかは!

GM : え? ……あ、ほんとだ!

FZ : バックトラーック!