◆ 第2サイクル・シーン6 ◆  「さめても胸のさわぐなり」


 Scene Player ―― 副会長:陸奥 龍之助



龍之助 : ドラマシーンをします。……5。

GM : 「校舎の屋上。一陣の風が吹き、衣服をたなびかせる」ぱたぱたぱた。

秘野森 : 出とく?

龍之助 : じゃ、……うん。お願い。

秘野森 : OK。呼ばれて行こうか、先にいようか。

龍之助 : 呼ぶから、階段を上ってきてもらえるか。その足音がしている間くらいに、柵に肘を置いてプールの方で女の子2人が話しているのを見てる。

秘野森 : とん、とん、とん。

シオリ : だんだん耳が赤くなってきますよ(笑)

龍之助 : 「可愛いなあ、シオリちゃんは」

GM : 判定は。

龍之助 : ん。「……愛してるのと、信じるかどうかはまた別の話なんだよね」ユヤちゃんの【秘密】を抜きます。

ユヤ : おう。

秘野森 : 「……呼んだか」感情修正+1。

龍之助 : 「おう」ありがとう。《結界術》で情報判定。見えないくらいに細い、蜘蛛の糸を張り巡らせてある。……成功。

GM : どっちの秘密か。

龍之助 : ――1。【パーソナル秘密】かー。

ユヤ : アタシはありがたい。はい!




 パーソナル秘密【告白】(書記:天波 熊野)
 対象:陸奥 龍之助


シオリ : ……おおおぅ!?

ユヤ : ありがとう先輩! 成立したわ、両想い!

GM : すげえ!

ユヤ : さっきの感情獲得でたまたま「愛情」振ってくれたから!

龍之助 : そっか、ほんとだ!

ユヤ : あたしの「友情」が「愛情」に書き換わって、奇跡の全員両思い成立。

龍之助 : 2点獲得は全員できるってことか!

GM : マジ!? こんなことあるんだ……!

秘野森 : まあ今のところ真琴だけハブなんだけど。

ユヤ : あれ可哀想だ!?

GM : るー。

ユヤ : 「……そうなのよ、先輩」

龍之助 : 「……そっか」

ユヤ : じゃ、屋上からの視線にくるっと振り向いて、パチーン! ってウィンクします。

全員 : (笑)

龍之助 : 手を振る。

ユヤ : そして退場します。ていうかごめん登場してねえのに!




秘野森 : 「……皆が皆、この文化祭で思い出を作ろうとしている」

龍之助 : 「……」



 いつのまにか、柵に肘を置いた副会長の数メートル後方に会長が立っている。

 風に乗って屋上に届く、釣り部の喧騒。演劇部の声。モニュメントを作り直す生徒たちの大騒ぎ。



龍之助 : 「だけどさ。やっぱり、いちばん大事な思い出を手に入れる資格があるのは、お前だと思うんだよ。俺」

秘野森 : 「……思い出は、それぞれの人の心の中にあるものだ。おいそれと渡したり受け取ったりできるものでもない」

龍之助 : あ、そっか!

秘野森 : そうそう。

龍之助 : プライズ渡そうとして呼んじゃった、ごめん! 俺戦力的にいちばん奪われやすいから、渡しておきたかったんだ。

秘野森 : 渡すには茶番戦闘をするしかなかった事態だ。

GM : 話して聞かせることはできるよ。

龍之助 : そっか!

ユヤ : いけるいける!




龍之助 : 「……誰なのかな。お前と同じように、この学校をとても愛してる奴がいる」

秘野森 : 「……」

龍之助 : 「いつまでもこの時間が続けばいいと。思ってる奴が、いる」

秘野森 : 「それは」

龍之助 : 「そうだな。そこのところがお前とは違う」

秘野森 : 「いつまでも永遠に、楽しい時間が続いていけばいい。……その気持ちは確かに、理解できないわけでは無い」

龍之助 : 「あと半年なのは淋しいって、言ってたよな」

秘野森 : 「ああ」

龍之助 : 「……もし、半年も無い、って言ったら、……お前はどうする」

秘野森 : 「――……」



 龍之助の顔に、いつものふざけた表情は無い。


秘野森 : 「……。たとえば、そうだな。一月後に空に浮かぶ大きな星が落ちてきて、この世界が滅ぶであるとか。たとえば、どこかで何か物凄いものが目覚めて、世界全てを焼きつくすであるとか。……そういった話であれば、もしかしたら……この時が永遠に続けばと、願ってしまうかもしれない」

龍之助 : 「……」

秘野森 : 「それは、この世界自体が終わってしまうならという話だ」

龍之助 : 「……『この世界』、……な」

秘野森 : 「だが、まあ、それにしても、準備ばかりを繰り返すのは、流石に骨が折れる。せめて1日くらいは進めてほしいな。できることなら」

龍之助 : 「……分からない」

秘野森 : 「……。何か、そういったことが起きようとしているのか」



 沈黙。


龍之助 : 「『この世界』そのものが、もしも終わってしまうかもしれないのなら。この時が続くことを願うかもしれない。そう言ったな、秘野森」

秘野森 : 「世界が終わることは、誰も望みはしないだろう」

龍之助 : 「――分かった」

秘野森 : 「どうした、龍之助」



 龍之助が振り返る。何かを決意した表情。吹きぬける風を挟んで2人が向かい合った。


龍之助 : 「俺は、『俺からは』語らない。渡すつもりも無くなった」

ユヤ : おお……

龍之助 : かつかつと歩き出して、階段の方へ向かいます。

秘野森 : 「待て、何があったんだ!」

龍之助 : すれ違いざまに。「――俺はお前を守る」

秘野森 : ……その後ろ姿を見て。一言も発せず見送ります。