◆ 第4サイクル・シーン5 ◆  「しひて我が寝る春の夜の」


 Scene Player ―― 生徒会長:秘野森 匿太郎



5シーン目、カオルはもう一度後に回ると宣言。

秘野森がシーンプレイヤーとなった。



秘野森 : 戦闘シーンを宣言。水波カオルに戦闘を仕掛けます。

GM : 【居所】は持ってるね、OK。

秘野森 : こっちか水波カオルに【感情】持ってる人は乱入可能。

龍之助 : 出ていいか。

シオリユヤ : 乱入します。

GM : ではシーンプレイヤー、戦場表は。

秘野森 : 振りません。「平地」で。……生徒会室に全員を呼び出す。

全員 :おおおお!!

ユヤ : 生徒会室って平地?

秘野森 : 平地じゃないとランダムになるから! 生徒会室「極地」とか困るから!

ユヤ : 「水中」とかな。

龍之助 : 今までどんな会議してたの!?




ユヤ : ……最初から全員出るから、5ラウンドはあるか。

秘野森 : しかしクライマックスではないから、一撃食らうと脱落する。そこが面倒ではある。

ユヤ : 真琴ちゃんが一撃入れると目覚めるはずだったとかだとまずい。

龍之助 : ……。会長は、待ち構える形?

GM : では、PC4人が生徒会室で待ち構える場面から行きましょう。



 通い慣れた生徒会室。

 が、そこにいつもの賑やかさはない。

 ふたりを欠いたメンバーが、沈黙のうちに席についている。



GM : 扉がからからッと開いて、「会長、参りましたよ〜」とカオルが入ってくる。

秘野森 : 「すまない。緊急の呼び出しをしてしまった。これで揃ったかな」



 いつものように。そう、いつものように、

 秘野森生徒会長が、背筋を伸ばして朗々と口火を切った。



秘野森 : 「――清陵学園生徒会には、ひとつの懸案事項があった」

全員:「……」

秘野森 : 「皆は恐らく『月読』という名についてそれぞれ聞き及んでいると思う。そして、その『月読』の正体が……水波君、君であることもだ」

GM(カオル) : 「……え?」

ユヤ : 「(うなずく)」

GM(カオル) : 「月読って、さっきのあの、……え?」

秘野森 : 「諸星君は、それを知っていた。そうだね」

GM : 水波カオルはうろたえて喋りだす。「え……? も、……諸星が何かって、それが僕と何か関係があるんですか、会長!」

秘野森 : 「ああ。大有りだ。君が『月読』と呼ばれる存在だ。自覚はないのだろう。恐らく、自分でそうしたのだろう」

GM(カオル) : 「自覚がとか、月読とか、それ、何の話なんですか!」

秘野森 : 「水波くん。――君が作った『同好会』とは何だ?」



 水波カオルの【秘密】

 一見何の変哲もない平和なそれに書かれていた、たった一つの謎の言葉。

 仲間を集めて「同好会」を作った……「生徒会」ではなく、だ。



秘野森 : 「君は『同好会』を作った。君は、そのことは覚えているはずだ」

GM(カオル) : 「そ、……それは、会長たちと仲間になったってことですよ。僕は、仲間で何かするのが好きだから」

秘野森 : 「ここは『同好会』ではない。同好の士の集まりではない。清陵学園を守る『生徒会』だ」

GM(カオル) : 「う……」

秘野森 : 「たとえ、君が『月読』としての記憶を取り戻していないとしても。……そろそろ僕は限界だ」

GM(カオル) : 「ほ、本当に会長、何をおっしゃってるのかわかんないですよ! 限界だからって……何をするって言うんです!」と、傍点つけながらの感じで。

ユヤ : ドドドドドドド

秘野森 : 「君を、排除する」

GM(カオル) : 「生徒会をクビってことですか!」

秘野森 : 「生徒会をではない。この学園、……そして」ぐっと握り拳を作って。「……この世から、排除する」

龍之助 : 傍らに立ちます。

GM(カオル) : 「ちょっ……!」驚いて立ち上がって、2、3歩よろめいて。周りを見回して「せん、先輩方、止めて下さいよ、会長を!」

秘野森 : 椅子からガタリと立ち上がって、文化祭用に準備していた、白い布のかかったテーブルを退かす。

ユヤ : 「……ごめんね」扉の前に。ガチャリと鍵を閉めます。

秘野森 : 習っている古武術の構えを取る。

GM(カオル) : 「ちょっと……!」

シオリ : ……その前に出る。

全員 :!!



 会長、龍之助、ユヤの三人の前に、

 シオリはカオルを背中に庇って立ちはだかった。



シオリ : 「水波君が、水波くんのままなら、私は……」

秘野森 : 「三好くん。言ったはずだ。僕たちには時間がない。時間は、無限ではない」

シオリ : 「わかってる。終わらせたいんでしょう?」

GM(カオル) : 「ま、待ってください! 武術とかはやってないけど、僕だって男だ! 会長がシオリにまで何かするってんなら、僕だって!」プルプル震えながらも構えます。

シオリ : 「会長、ごめんなさい。でも、天波先輩が言ってたの。――恋に生きてもいいんじゃない、って」

秘野森 : 「――……」

龍之助 : 「秘野森」

秘野森 : 「……大丈夫だ。一人も二人も変わらん」

ユヤ : 「会長……」

秘野森 : 「いや。……もう、一人死んでいるのだったか」拳を固めて構える。

龍之助 : 「……。よし。大丈夫だ。お前たちは傷つかない。傷つけさせもしない。気の済むまでやれ」

ユヤ : 「先輩!?」

龍之助 : 「シオリちゃん。君も、俺が守りたい『4人』のひとりだ。気の済むまでやれ。こちら側に来いとは言わない。ただし傷つけさせない」

ユヤ : か、【かばう】で!?

龍之助 : うん。

ユヤ : ラウンド一回……

龍之助 : が、がんばるよ!(笑)




龍之助 : ……とは言うんだけど、これ、カオル倒すのって難しいよね!?

ユヤ : うん……クライマックスに入らないなら、難しいと思う。クリティカルヒット入れたとしても4点。脱落された後でどうなるかを見守るくらいしかない。

秘野森 : どうしたらいいかはわからないから、やれるだけのことをやる!

龍之助 : ……(頭を抱える)

ユヤ : どうしたーー!(笑)

龍之助 : き、決めてたはずなんだけど、なんだけど……!! ここ来て揺れる、うわー……!

ユヤ : 好きにやれ!

シオリ : 私もやるし!(笑)

秘野森 : 来い!

龍之助 : うう…… よし、行く!




龍之助 : 「……(押し殺した声で)秘野森」

秘野森 : 「……」何も言わずに、拳を握りしめて答える。

龍之助 : 「あと、……何日かは、……持つ、よな?」

秘野森 : 「……分からない。取り込まれてしまうかも、しれない」

龍之助 : 「ここで倒せなくても、……繰り返し続ければ、いつかは倒せる。……お前の目的は、それでいい……よ、な」

秘野森 : 「……分からない。目覚めなくなる時が来るかもしれない。今は……正直、もう、義憤で体を動かしているに過ぎない」

龍之助 : 「……!!(奥歯を噛み締める)」




シオリ : 「ごめんなさい。会長を助けたいって思いもある。だけど、……私には、こうすることしかできない」

GM(カオル) : 「何言ってんだよシオリ、逃げろ!!」

シオリ : 「言ったじゃない! ふたりで歩いて行こうって!」

GM(カオル) : 「ばか、それでも! ……会長はずいぶん武術ができるって聞いた、噂もいくつも聞いたことがある。俺が戦って勝てるかどうかわからないけど、でも、シオリが逃げる時間くらいは作ってみせる!」

シオリ : 「逃げない!」




GM : では、プロットだ!

龍之助 : ……うおーーーー(じたばた)

秘野森 : ふふふふ。




シオリ : 3、龍之助 : 6、秘野森 : 4、ユヤ : 1。

そしてカオルは。


GM : 0。

シオリ : ゼロ!?

秘野森ユヤ : 「一般人」……!!



秘野森 : やばい、届かない……いや、違う。0は誰からでも届くんだ。

GM : そう。誰でも殴れます。

秘野森 : 殴る時は予測値?

GM : それも使わない。

秘野森 : 使わない!?

龍之助 : 「一般人」というか……エキストラ……?




GM : では6、龍之助の行動。カオルは「シオリ、逃げろ!」と言って会長に向かっていきはするんだけど、戦闘に入ってみんなが「音速」とか「光速」になった瞬間から、彼の眼にはもう何も見えなくなって「えっ……!」て驚く。

GM(カオル) : 「消えた……!?」君たちから見ると、彼は文字通り止まって見える。振り上げたまま行き場のない拳、開いた口の動きが、本当にスロー・モーションに見える。だから彼を間合いに入れるのは非常に容易い。

秘野森 : なんだこれ。なんだこれ!

シオリ : ひゃーー!

秘野森 : あと見えてない【秘密】は、龍之助のと……「文化祭の思い出」のくらいしかないんだが!

ユヤ : え、プライズに? 何か条件が!?

秘野森 : かもしれない……! 文面としては明かされていないから。

シオリ : でも私が話は聞いて……そっか、見てはいない!

秘野森 : うん。だから、龍之助が何とかしてくれるのを信じている。

龍之助 : (頭抱えてる)……俺の【使命】は、ユヤちゃんとシオリちゃんは知っている通りなんだ。シオリちゃんと、秘野森と、ユヤちゃんを。

ユヤ : うん、うん。……え!?



 守ること。


 だから、

 龍之助には、クライマックスを起こすつもりは、なかったのだ。



龍之助 : ……GM。これ(クライマックス突入条件)って、敵側が脱落してしまうともう間に合いませんか。

GM : ……はい。

龍之助 : うう……!!

ユヤ : 悩んどる悩んどる。なんだろうなんだろう。

龍之助 : ……光速の移動に入ったところで、……秘野森を。さっきは言葉で聞いたけど、自分の眼で彼の動きや顔色を確かめます。……どうなんだろう。

秘野森 : ルールというかシナリオ的に、もうダメなんだろうと思ってる。4サイクルでぎりぎり、それをこういう風に表現してた。

龍之助 : ……。わかった。GM、会話って入れていいですか。

GM : いいよいいよ。ニンジャ会話だ。



「シノビ語り」というタームが咄嗟に出てこない我々。






龍之助 : お互いが消えるような速度の移動の中で、静かに。「……秘野森。シオリちゃん。ユヤちゃん。ごめんな。俺は3人を守りたい」

秘野森 : 「……」

龍之助 : スローモーションになってるカオルを指さして。「俺たちが一緒にいられるのは、この空間の中だけなんだ」



ユヤ : 「先、輩?」

龍之助 : 「分かったろう。今のこいつと、俺たちは違う。自分たちのこと、何となく変だとは思ってたろうけど、これで本当に分かっちまっただろう。俺たちは人外だ。もう人間なんかじゃない。この力を手に入れるまでのこと、覚えてるか。こんなことができるようになるまでには、人外の修行と、地獄の覚悟が必要なはずなんだ」

ユヤ : 「……ごめんね、先輩。死んだときに、全部置いてきちゃった……」

龍之助 : 「置いてきたなら、置いてきたでよかった。正直、俺はそれでいいんだ。その方がいい」

秘野森 : 「僕らには、分からない」

龍之助 : 「記憶がないなら、ないままでいい。こんな風に体が動く、それで身体と心が感じることだけで十分だ」

ユヤ : 「……それは」

龍之助 : 「そのうえ、そして俺たちはな、……仲間じゃないんだよ。仲間でも何でもないんだよ」

秘野森 : 「……それは、過去の話か」

龍之助 : 「そうだ。そして、未来の話だ。未来が……明日がやってきたら、俺たちはそこに戻るんだ!」

シオリ : 「……」

龍之助 : 「ここは、まやかしだ。そいつが作った幻の世界だ」

シオリ : 「生徒会も、学校も、……最初から、どこにもなかった?」

龍之助 : 「そう」

ユヤ : 「……そ、……」

龍之助 : 「シオリちゃんには話したね。俺たちは、『忍者』なんだ」

シオリ : 「おれ、『たち』?」

龍之助 : 「そう。俺だけじゃない、シオリちゃんも。秘野森も、ユヤちゃんも」

GM : それを明かすのであれば。……みんなの頭の中に、突然白黒の映像が浮かぶ。ノイズ交じりのひどい映像、断片的な映像だが、それはどこかのビルの中……

ユヤ : 導入シーンだ……!!

シオリ : おおおおお!!

GM : そう。そしてその後、月の夜。4人と、2人が戦っている。その映像も。

ユヤ : 「あれ、……アタシたち……?」

龍之助 : 「そう。俺たちだ。……その顔、よく見てみろ。全然違うだろ? 表情も何にもないだろう? ユヤちゃんを殺した月読だけじゃなかったんだ、俺たちみんな、ああいう生き物なんだ。今回は、たまたま同じ仕事でここに来たけど。違う指令が下ったら、その瞬間に殺し合いになるんだ。ユヤちゃんを殺したのは、月読じゃなかったかもしれない。俺たちの誰かだったって、何もおかしくなかったんだ。あの時の月読と同じ顔で、何を感じることもなく、菜っ葉切るみたいにお互いのこと、殺すことになるんだよ」

シオリ : 「……そんな」

龍之助 : 「高校生。生徒会。文化祭。準備に、恋に、一緒の時間に。馬鹿言ってさ。屋上行って、教室でだべって、ソファにシーツなんか掛けてさ。こんな『楽園』はもう、この幻の中にしか無いんだよ……!!」



 泣き笑いのような表情で、龍之助が叫んだ。

 呆然と、シオリが呟く。



シオリ : 「……おさななじみ、だったのに」

龍之助 : 「ここにいれば、そのままだ。その思い出がただ一つの事実だ。その記憶が有効なのは、この忍術の中だけだ」

シオリ : 「……ああ、……だから、ふたつ、あったんだ。終わらせたい。終わらせたくない」

龍之助 : 「ああ。きっと、シオリちゃんの心の中にあったその葛藤が、この場所のすべての真実」




龍之助 : 「そして何より、……ユヤちゃんはもう、ここから出たら生きてはいない。俺にはそれが耐えられない……!」

ユヤ : 「先輩、」

龍之助 : 「だけど、それは、それは俺が何とかする。だけど、この4人は」

ユヤ : 「先輩、アタシはもう、い……」

龍之助 : 「ごめんな、ユヤちゃん。そのお願いは、聞けないって言ったよな」

ユヤ : 「うん……うん……!」

龍之助 : 「俺は4人を守りたい。4人がこの4人でいられる場所を守りたい。いつかでいいよ、一度でもいいよ。その可能性を守りたい。あの顔じゃなく、笑って会いたい。なあ、できるかな。できるかなあ……!」



 強く頷いたのは、ユヤだった。


ユヤ : 「だって、先輩……ううん、龍之助さん、持ってるもの。あなたは生徒会の、この文化祭の思い出を持ってるもの」

龍之助 : 「これも幻だ。こいつが作った、忍術のかけらだ」

シオリ : 「でも、その思い出の中で、私たち、生きてきましたよ」

龍之助 : 「忍者に戻ったら、それもどうなるかわからない。心とか、感情とか、絆だとか友情だとか愛情だとか、そういうものを捨てる修行を俺たちはしてきたんだ。忍者の修行は武術の修行とは違う。心を殺すための修行だ。存在しない心の中に、思い出の残れる場所は」

ユヤ : 「でも、……龍之助先輩は、忍者としての記憶があるのに、アタシのことも会長のことも、愛してくれたじゃない!」

龍之助 : 「――……!!」



 ……龍之助のハンドアウトには、確かにそうあった。


ユヤ : 「だから、できると思うんだ。きっとできると思うんだ。もしも忍者に戻ったアタシが能面みたいな顔してたら、ひっぱたいて気づかせてくれればいいよ。これが全部終わった後に、宝物が……先輩の中には残ってるもの」

龍之助 : 「……」

秘野森 : 「……。フィクションだけの話なのか。その忍者というものが……実感はわかない、実感はわかないが、……例えばこうだ。忍軍大連合。例えばこうだ。流派を超えた血のつながり。そういったものもあるはずだ。だから、未来はあるはずだ」





龍之助 : 「――わかっ、……た」





龍之助 : 「……そう、だよな。俺、なんで忍者のままだったのに、こんなこと言ってるんだろうな」

秘野森 : 「それが何よりの証拠だ!」

龍之助 : 「分かった。……分かった。……ごめんな。守るって言ってたのに、最後の最後で頼っちまった」




龍之助 : カオルを見ます。

GM : カオルは止まった時の中、まださっきの拳を振り上げている。

龍之助 : その彼の方へと顔を向けて。そのまま。「秘野森。シオリちゃん。ユヤちゃん――『ずっと、いっしょだよ』!!」

シオリユヤ : 「……!!」





GM : 瞬間。激しい振動と、ビシリ、と大きなヒビの入る音。ガラスの砕けるような音。たくさんのシャンデリアが床に落ちて雨粒と降るような音がして、世界が砕け散ります。――この戦闘をここで強制終了し、クライマックスフェイズに移行します。

ユヤ : おお……!!