◆ クライマックスフェイズ:0 ◆  「寝覚めの床に見えずとも」


 Scene Player ―― −



 世界が壊れて、現れたのは闇だった。

 ずっと訪れなかった夜の空の下に5人は立っていた。

 冴え冴えとした月光が、降り注ぐ大量のガラスの破片を煌めかせる。



GM : 君たちの中で、さっきの断片的な回想シーンがすべてひとつに繋がります。

秘野森 : すべての記憶が帰ってくる。

GM : そう。君たちは流派を超えて集められ、ふたりの忍者を倒す使命を受けた。その忍者は「契兎」と「月読」。主人である方、「月読」は、導入で説明したとおり、恐ろしい秘伝書を盗み出した。

ユヤ : アレを完成させてはならない!

GM : そう。そして君たちは奴を追い詰めた。ビルの上、激しく忍術と忍術が交錯する。その中で、ユヤが命を落としてしまった。

ユヤ : あの酷薄な瞳で。

GM : うん。そんな犠牲を払って、あと一歩のところまで奴を追い込むことができた。そこで……最後の最後、「月読」が秘伝書の忍術を。「時檻」という名の忍術を使った。

ユヤ : ときおり……「おり」はシオリちゃんの「織」? 折る方の「折」?

龍之助 : ……いや。閉じ込める「檻」なんだ。

シオリ : あー……!!

秘野森 : ……え?

GM : そう。今こそ「時檻」の真実を明かそう。




(再掲)【秘密】プライズ『文化祭の思い出』
「現在、君たちは忍法『時檻』によって閉じた時間の中に封じ込められ『楽しい学校生活を送る学生たち』という偽の記憶を刷り込まれている。時間を先に進めるためには、『時檻』を解除しなければならない。『時檻』は、4サイクル目が終了するまでに、術者の設定した『合い言葉』を術者に向かって伝えることで解除される(クライマックスフェイズになる)。『時檻』を解除した者は、一つだけ自分の望みを叶えることができる」


ユヤ : なるほどなあ……!!

シオリ : なるほど!

ユヤ : うまい。

龍之助 : ごめんな。俺の使命上は、みんなを閉じ込めたままでよかったんだ。

ユヤ : そうだよなあ。

龍之助 : そうしようと思った。秘野森に愛情結んだのが間違いだった。

秘野森 : はーははは。

GM : で、この瞬間君たち全員は、自分が忍者であったこと、受けていた忍務をすべて思い出します。高校生活が、すべて偽の記憶であったことも。

シオリ : じゃ……砕け散っていくガラスのかけらと一緒に、眼鏡が滑り落ちてパリーンと割れます。

龍之助 : おお!?

シオリ : で、笑いだします。「――楽しかったね……!」




GM : 水波カオルも……月読も言います。すべてを思い出した月読が。「いや。過去形にすることはないさ。もう少しで時檻は完全なものになるんだ。忍者の生活に何の未来がある? さっき、彼の言った通りだ。何もない。何もありはしない。僕はあの生き方に疲れたんだ」

龍之助 : 「……帰れない。何もない」

GM(月読) : 「そうだ。なあ、ずっと一緒にあそこで暮らそう。檻に閉じこもることに何の問題がある。こんな現実に何の意味がある!」

秘野森 : 「……それで。檻の中で生きることには、何の意味があった? いや、それはそもそも……生きていたのか? 月読。御斎をなめるなよ。僕はこの通り、戻ってきてもこの姿だ」



 気づくと、幻の世界を脱した全員は姿が変わっていた。

 存在しない学校の、存在しない制服から。

 シオリは黒衣。紗の頭巾が顔を覆う、漆黒の裏方の姿。

 龍之助は、ぼろぼろの僧衣。古き世の隠忍の抜け忍に。

 ユヤは常夜の巫女の姿に。

 その中で、確かに秘野森だけは制服姿のままだった。



GM(月読) : 「そしてもう一度、血みどろの戦いに身を置くってのか。斬っても、斬っても、斬っても斬っても! やってくる追手は数限りなく、まっとうな生活なんかありはしない。そこには安寧もなければ幸せもない! 冗談じゃない!」

秘野森 : 「それは、そこに幸せを『見いだせなかった』だけのことだ。忍務の最中に育まれる友情もある。愛情だってある」

GM(月読) : 「……それは」

龍之助 : 「……なあ月読。お前も、それを信じたからこそ、あんなキーワードを彼女に設定したんだろう。シオリちゃんがお前のことを本当に好きになってくれたら……それでなら檻が壊れて、時間が進んでもいいと思った。じゃなきゃ、設定しないだろう。お前ほど周到な忍者が、他人に運命を任せるようなあんなもの」

GM(月読) : 「……」

龍之助 : 「なあ、違うか。それとも、彼女を籠絡し切れたら、【時檻】のもう一つの効果を……『願い』をお前のために使ってくれるだろうと思ったからか。それで叶えたい野望がまだあるか」

GM(月読) : 「それ、は……」

龍之助 : 「ごめんな。シオリちゃん。それがあるから君の大事な言葉、言わせてあげられなかった。……言いたかったろうな」

シオリ : 「わかってる、くせに。私が言いたいのは、ああいう言葉じゃないってこと。前へ進むこと。それが私の使命だ。だから、こんなことしないで、……がんばればよかったんだ」

龍之助 : 「――はは。だとよ、月読!」

GM(月読) : 月読は深くため息をついて顔を覆います。「……あの戦いとあの生活をしていて、あの合言葉を設定したのも。あの合言葉を言ってもらえる可能性は、万にひとつも無いと思っていたからだ」

ユヤ : 「……月読」

GM(月読) : 「でも、……君の言うとおり、もしかしたら、ひょっとしたらその言葉を言ってもらえるかもしれないって、……僕は期待していたのかもしれない」

ユヤ : 「……よかったじゃない。告白して貰えたじゃない。その言葉じゃ、なくてもさ。あんた」

GM(月読) : ギュッと拳を握って。「でも、僕はあの暗い世界に戻るつもりはない。君たちのことが好きになったからこそ、より強くそう思うようになった。秘伝書はまだここにある。【時檻】は再現できる。僕と一緒に帰ろう、あの場所に!」

シオリ : 「それが、戻るっていうことだよ。あそこにいるっていうことは、戻るっていうことだよ!」

秘野森 : 「戻るどころか、足を止め、何もしなくなるということだ。目の前に、忍としての記憶を持ってなおその友情を育もうとした者もいた。その記憶を胸に……(身構える)――散って行け」

GM(月読) : 「……ああ。仕方がない。ふと見れば、契兎の姿もなし。……いいさ。俺は結局いつも一人。一人だけでやってきた――」




シオリ : 「ひとつだけ、聞く」

GM(月読) : 「何だ」

シオリ : 「お前は、……なぜ、合言葉に、……私を選んだ」

GM(月読) : 「…………。なんで、だろうな」

シオリ : 「答えろ!」

GM(月読) : 「まずひとつ。僕の望みを達するためには、他人が必要だった。僕が作った『同好会』は、『清陵学園同好会』さ。君たちを使ってね」

ユヤ : 「清陵学園なんて、本当はどこにもなかった」

GM(月読) : 「そう。……そして、なぜ君を選んだかといえば」



 攻撃的な自嘲の響きを持ち続けていた月読の声が、ふと途切れた。

 光速の世界。霧のようにゆっくりと降りそそぐガラスのかけらの中で、そのきらめきを透かして空を見た。



GM(月読) : 「……何でだろうな。月光に映るその瞳から、目を離すことが……できなかったから」

シオリ : 「……それだけ聞ければ、充分」

GM(月読) : 「僕は、僕の世界を守る」

シオリ : 「言ったじゃないか。一緒に歩いて行こう、って。裏切ったのは、お前だ……!!」



 世界の破片が輝く中で、5人は武器を取り身構える。


秘野森 : 「……龍之助」

龍之助 : 「うん?」

秘野森 : 「……ありがとう」

龍之助 : 「……(笑って)さっさと忍の世界に頭を戻せ。こんな嘘吐きの裏切り者には、死だぞ」

秘野森 : 「いや。忍の世界に戻っても、残念ながら清陵学園生徒会はなくならない」

龍之助 : 「……、」

秘野森 : 「お前は、そう願ったじゃないか」

ユヤ : 「――つくる、の? 会長」

秘野森 : 「この忍務が終わったら、ゆっくり考えて行こう」




GM : では、クライマックス、戦闘シーンのプロットだ。その前にひとつ確認することがある。便宜上、「脱出を望む側」と「時檻に残ることを望む側」にはっきりと分かれてもらう必要がある。

秘野森 : 陣営の勝利条件に関わるからね。

GM : そう。サイコロを握って、「残る側」は6を。「脱出側」は6以外を出してくれ。これは戦闘のプロットとは関係がない。――行くぞ!

PL : おう!



全員がサイコロを公開する。

月読は6。

シオリは1。龍之助は1。秘野森は1。ユヤが4。

陣営は、決した。