◆ 第4サイクル・シーン3 ◆  「暁がたの別れなりけり」


 Scene Player ―― 副会長:陸奥 龍之助



龍之助 : ……行っていいか。

ユヤ : 行けッ。

GM : では、副会長がシーンプレイヤーね。シーン表を振ってください。

龍之助 : シオリちゃんを探して学校内を駆け回ります。シオリちゃん、どこにいる! ……8。

GM : 「カフェテリア」にいますね。

龍之助 : 「シオリちゃ……(急ブレーキ)――いた!」

シオリ : 「……? 先輩」

ユヤ : きっと、さっきの会長との会話を反芻していたときとか。

シオリ : うん、うん。それ。

龍之助 : 向こうの方で生徒の「きつねうどん1つ!」っていう声が聞こえる中、「シオリちゃん……!」と机にバンと手を置いて。

シオリ : 「どし、……たんですか、陸奥先輩。慌てて」

龍之助 : 「ちょっと時間もらえる?」

シオリ : 「はい、……えっ、」

龍之助 : 手をつかんで引いていこうとする。「あ、ごめんねコーヒー来てるこれ(反対の手で持つ)」

シオリ : 「あ、そのコーヒーは熱いで……」

龍之助 : 「あづッ!?」

GM : (笑)では、シオリは手を引かれて。




龍之助 : カフェテリアを出て、廊下の隅のほうへ行きます。

シオリ : 「あの、あそこじゃ駄目だったんですか」

龍之助 : 「(声を潜めて)ごめんね。あいつがいるかもしれないから」

シオリ : 「あいつ……?」



 戸惑いながら付いてゆく死織。

 人気の無い廊下の隅へやってくると、周囲を確かめてから龍之助は壁際の死織に向き合った。



龍之助 : 「シオリちゃん。これからすっげェ野暮な話するけどごめんね」

シオリ : 「……(こくこく)」

龍之助 : 「シオリちゃんは、……水波のことが、好きなんだよね」

シオリ : 「……………………。(こくん)」

龍之助 : 「……いい子」(頭を撫でる)「……あの野郎」

シオリ : 「先輩、何か知ってる」

龍之助 : 「……」

シオリ : 「さっき、会長に言われた。二人と話しなさいって」

龍之助 : 「……。シオリちゃん。あのね」



 膝を曲げ、死織の顔に目線を合わせる。


龍之助 : 「他の子同士の恋そのものに口を出す気はないんだ」

シオリ : 「……」

龍之助 : 「手は出したければどんなとこにでも出すし」

シオリ : 「!?」(笑)

龍之助 : 「はは(笑)……だけど今、一つだけ、止めなきゃならないことがある」

シオリ : 「……」

龍之助 : 「シオリちゃん。中身は言わなくていい。……あいつに、『言え』と言われている言葉があるね」

シオリ : 「!! ……んっ、」

龍之助 : 「……」

シオリ : 「……(こく)約束、……した」

龍之助 : 「……そうか」

シオリ : 「さっき、それで会長に相談に行ったの。言って、って言われた、言葉」

龍之助 : 「まだ言っていない」

シオリ : 「まだ、言ってない」

龍之助 : 「言うかどうかを悩んでた?」

シオリ : 「っだって、それ、どっちかっていうと……(もごもごと)言ってほしいこと、だし」

龍之助 : 「……」息を吐いてその場にへたり込みます。

シオリ : 「な、に? え!? どうしたの先輩」

龍之助 : 「(膝に顔を伏せて笑いながら)し、シオリちゃん、可愛い……っ」

シオリ : 「えっ。えっ!」

龍之助 : 「あはは、シオリちゃんが可愛い子で、古風な子で、――(下を向いたまま表情を消す)本当に良かった」

ユヤ : う!?

シオリ : 「なんですか、先輩!」からかわれてると思ってばしばし。

龍之助 : 「シオリちゃんがそれを言ってしまってたら、俺たちは二度とここから出られなくなってたんだよ」

秘野森 : 何ッ!?



 死織の手が止まった。分厚いメガネの下で瞳が見開かれている。



 ……同時に、GMは驚いてプライズの【秘密】を確認していた。



龍之助 : 「会長に会いに行ったってことは、シオリちゃん。君は、君にとっていちばん辛い真実はもう知ってるんだね」

シオリ : 「……。そ、っか。言ったら」

龍之助 : 「完成してしまってた」

シオリ : 「ん。……私の想い、叶わなくなるんだ」

龍之助 : 「想い」

シオリ : 「違うの?」

龍之助 : 「ある意味、叶うんだよ。あいつは、君もそれで喜んでくれると思ったのかもしれない。お互いの気持ちが確認できて、……そのままずっと、いちばん幸せな時間が続いて」

シオリ : 「――。……ううん、それは……違うよ」

龍之助 : 「?」

シオリ : 「それは、幸せとは言わない。止まってるだけだ」

龍之助 : 「だけど」

シオリ : 「人間の感情は、数学の問題と同じじゃない。答えが、出ても。まだまだ、続く。続くから、それが幸せだったって分かるんだと思う」

龍之助 : 「幸せじゃなかったって、なっちゃうかもしれないよ。ここを出て時間が進んだら、文化祭が終わったら。俺たち、大きくなってさ。打ち上げが終わって、卒業式が終わって、大学へ行って、大人になって、結婚して。社会のしがらみに巻き込まれて、悲しいことがたくさんあって。喧嘩して、いがみあって、あああの幸せは違ったんだ、って。……そんなことが、もう二度と起こらなくなるはずではあったんだ」

シオリ : 「でも、……そういうやり直しの仕方は、好きじゃない。私は、前へ進みたい。自分の足で歩いていきたい」

龍之助 : 「それには」

シオリ : 「その隣に、…………あいつがいればいいなと、思ったけど」

龍之助 : 「……」

シオリ : 「……駄目、……なのかな」



 顎を引いて深く俯いたまま、淡く微笑む。

 最年少ながら皆に頼りにされてきたしっかり者の死織の、それは初めての弱音だった。



龍之助 : 「……。決めなくても、まだ、恐らくしばらくは続くだろう」

シオリ : 「言わなければ、いい?」

龍之助 : 「言えば完成する」

シオリ : 「完成って……何?」

龍之助 : 「それは……その。えっとね。シオリちゃんはどう説明するべきかな……」

GM : (笑)

ユヤ : だいじょぶ、龍之助先輩が実は忍者であるっていうのはシオリちゃん知ってるから!

龍之助 : そっか!「えと、実感としてシオリちゃんが信じられるかどうかはともかく、俺がそういうタームを使う人種だっていうのだけ分かった上で説明を聞いてくれる!?」

シオリ : 「う、うん!」(笑)

GM : プライズの裏を読ませる?

龍之助 : うーん……や、キャラで伝えたいです。

ユヤ : 「語ることはできる」だったもんね。

GM : そかそか、OK。

龍之助 : 「これは、とても大規模な……この学校全体を『巻き込んだ』忍術の一種なんだ」

GM……?

龍之助 : 「俺たちの清陵学園を、忍法で作った空間に閉じ込めて、この賑やかな学園祭前日……9月30日を繰り返させる」

シオリ : 「なんで、この学校に?」

龍之助 : 「たぶん、あいつが……君の気持ちを確かめて、君と一緒に時間を過ごすため。きっと、ただそれだけの」

シオリ : 「それだけ!?」

龍之助 : 「ま、この空気が楽しいってのもあるだろう。もしかしたら、俺たちのことも一緒にいて楽しいと思ってくれてるのかもしれない」

シオリ : 「……(頷く)」

龍之助 : 「だったら嬉しいよね。……でも、その中でもあいつにとって特別に楽しいのは、君と買い出しに出て、行って帰って、怒られながら校庭を歩いて、昇降口から廊下を歩く……きっと、その時間」

シオリ : 「……ん……」

龍之助 : 「……(じっと目を見る)」

シオリ : 「準備が楽しいのは、……終わるから、だと思う……な」

龍之助 : 「……」

シオリ : 「……私は、ダメだ。(少しおどけて)準備の時は不安でしょうがない。例えるなら、数学の問題が解けないような感じ」

龍之助 : 「ふふっ」

シオリ : 「耐えられない!」

龍之助 : 「証明の途中で時間が無くなって、書いた数式が消えちゃう感じ?」

シオリ : 「そう! ……きちっと全部終わらせて、それがはじめて達成感になる」

龍之助 : 「……その結果、とても悲しい答えが出てしまうとしても?」

シオリ : 「……だから、……悩んでる」

龍之助 : 「もしも、君の手に掛けたくないのなら。俺たちだけで済ませてくる。あいつの中に、君の思い出だけでも綺麗に残せるように」

シオリ : 「……」

龍之助 : 「例えば俺がシオリちゃんを奪い取りたいからあいつを殺すことにしたっていい。はは、やりそうだろ? 可愛いしねー、シオリちゃんは」

シオリ : 「…………」

龍之助 : 「……あいつは君の名前を呼びながら、俺たちだけを恨んで死ぬだろう。そうすることもできる」



 長い間俯いたまま黙っていたシオリが、ぽつりと言葉を零した。


シオリ : 「それは、……なんか、……やだな」

龍之助 : 「……シオリちゃん」

シオリ : 「……私、わがままだね」

龍之助 : 「いや。……『可愛い子』から『いい女』に格上げだ」

シオリ : 「陸奥先輩はそればっかりだ」

龍之助 : 「ふふ」

シオリ : 「そんなことばっかり言ってるから、本当に好きな人に分かってもらえないんだよ、っ」

龍之助 : 「えっ。や、やっぱ通じてなかったか……! 結構ヘコむな……!」

PL : (笑)

龍之助 : 「(ひとしきり笑って)……そうそう。俺はこういう話ばっかりしか出来ないからさ。最後の覚悟の話は、……女の子同士、相談させてもらうといいよ」

シオリ : 「……うん」

龍之助 : 「よし」

シオリ : ……こわいほうじゃないよね?

龍之助 : (笑)うん。「……真琴ちゃんの正体は分かったろ」

シオリ : 「うん……」

龍之助 : 「彼女もまた駒だ。もう協力は取り付けた、心配は要らない……と思いたいけど。とりあえずそっちは何とかする。ユヤちゃんとこ、いっておいで」

シオリ : 「うん」

龍之助 : 「ん。……じゃあ俺、見回り行ってくるわ」

シオリ : 「うん」

龍之助 : 「じゃ、」

シオリ : 「――ありがと、先輩」(小さく微笑む)

龍之助 : 「……、……ん」




GM : 判定は何にしようか。

龍之助シオリ : あ!?

秘野森 : やってない(笑)

ユヤ : なんだと!(笑)

GM : 情報は一個、えっと……真琴の【パーソナル秘密】が残ってるだけかな。

シオリ : あ、そかそか。

ユヤ : 感情も結んでるし。

秘野森 : 今の「協力を取り付けた」っていうことで、真琴にシーンに出てきてもらって感情を結ぶ手がある。

ユヤ : それをプラスにするかマイナスにするか考えながら。

秘野森 : ここからが大事なルールの話。エニグマで『ボス』っていうタームが出たね。

シオリ龍之助 : うんうん。

秘野森 : これとは別に、「腹心」っていうタームがある。「腹心」はクライマックスまでにPCに対してプラスの感情を持っている場合、それを持たれている側のPCが出てきてって言わない限りは「セッションから脱落する」。

シオリ龍之助 : ……あー!!

龍之助 : で、でも、出てきてもらうことって……できますか? 感情結びに……

GM : いいんじゃないかな? 協力ほんとに取り付けたし、真琴はするつもりになってるし。

龍之助 : ありがとうございます! じゃ、

秘野森 : 「協力は取り付けた」の所で

ユヤ : 物陰から真琴ちゃんがザッ! と出てきて。

龍之助 : 目を合わせて黙って頷きあう……という【感情判定】!

ユヤ : あっ、……待て、いいのか!?

龍之助 : ん?

ユヤ : 戦闘に真琴出てこないと、龍之助はあの。



 ユヤは龍之助の秘密「あなたたちに与えられた忍務とは、『月読』と『契兎』という2人の忍者を倒すことである」の部分を指して心配している。



ユヤ : あの。

秘野森 : 何だ何だ、僕の知らないところで(笑)

龍之助 : 大丈夫。よく読んで。



 ユヤ、龍之助の秘密を熟読。


ユヤ : ……あ。そうか。そうか!!

龍之助 : そうなの。

シオリ : ……あー!! なるほど!! なるほどね、そうだよね!



 一緒に参照した死織も気づいた。

 さきの部分には、「あなたの【本当の使命】は」という記述が無い。

 忍務、とあるだけだ。

 つまり龍之助の使命はハンドアウトの表側、「4人の仲間を守る」ことのまま。契兎=真琴を倒す必要はないのだ。



ユヤ : 月読の方は、

龍之助 : 言ったとおり。あいつのためだ。

ユヤ : イヤー。(Yeahの意)

秘野森 : なーんーだーよー。

シオリ : 会長、愛は足りてるけど情弱だよね(笑)

ユヤ : 「エニグマ」壊してくれてたから!

龍之助 : ほんとだよ、ありがとう! 判定……は、面白いから《衣装術》でやろうかな。真面目な顔して頷き合う時には彼女は、さっきまで俺と衣装合わせしていたウェイトレスさんの服を着せられている。

GM : なるほど!

ユヤ : アリなの!?

龍之助 : ……GM、あの、ほんとに振っていいですか?

GM : ん?

秘野森 : シナリオ上、これでもし退場させるとまずいようなら、ぶっちゃけて止めてくださって大丈夫です。

龍之助 : ですです。



 GMを交え、腹心のルールを確認。


GM : うん、これなら、いいとおもう。OK。

ユヤ : まあ、マイナスの【感情】結んできたっていいわけだしな!

龍之助 : それもそうだね!? ……うりゃ!(ダイスロール)……成功!

GM : わかった。基本的にプラスだろうな、ここまでの流れだと。

秘野森 : うまくやってくれてる。

GM : そうそう。

龍之助 : こっちは振ってみて選ぶね。「憧憬」か「劣等感」……

ユヤ : 後ろめたさじゃねえのか。

龍之助 : そうとも……いう……「劣等感」で。

秘野森 : 真琴は。

GM : 平地。

ユヤ : なんですと!?



 参照先ミス。


GM : ちがう。ちがーう。「共感」か「不信」。「共感」だろうな。同じ目的で協力してくれてる。

秘野森 : ここで、後は俺たちに任せろっていうと、君が望まない限り登場しなくなってくれる。

シオリ : そうか、陸奥先輩はそれでいいんだよね。なるほどー……

ユヤ : 「忍務」は飽くまでで導入の設定なのですな。使命ではない。

龍之助 : こういうハンドアウトがありうるんだね。シノビガミすごいね。

秘野森 : あとで見せて! あとで見せて!(笑)

ユヤ : うん、ごめん! ごめん!(笑)

GM : ああ、実にシノビガミらしいプレイ風景だ(笑)




龍之助 : 「……というわけだ、真琴ちゃん。君には、月読の手によって何が仕掛けられているかわからない。歯痒いだろうけれど、俺たちに任せてもらえるか」

GM : では、告げるよ。「……ああ。分かった、そこまで言うなら任せるとしよう」

シオリ : 「……ん」

GM(真琴) : 「だが……陸奥。いいのか?『本当のこと』を明かさなくて。それとも、時が来れば明かすつもりなのか。私はそれだけが不安だ」



 月読の部下である真琴……契兎は【時檻】の真実を知っている。


龍之助 : 「……大丈夫。時が来れば、……伝える」

GM : 「――そうか」言って、真琴は退場していきます。




ユヤ : ……あっ、真琴ちゃんの【パーソナル秘密】明かせなくなった!

龍之助 : あっ、わっ、ごめん! まずい? 呼ぶ?

ユヤ : いや、だいじょぶだいじょぶ。誰が好きだったのかなーってだけ(笑)

GM : ユヤが乗り移ってるな(笑)さて、これでやることは終わった?

秘野森 : あとは、こっちの秘密をシオリに渡すかどうかくらい。

龍之助 : そうだね。こっち、もう結構シオリちゃんと話させてもらったから、それはユヤちゃんに任せようか。重いネタ残しておいた方が。

ユヤ : まあね、



 龍之介が「情報屋」でシオリの【居所】を入手して、シーン終了。



 その間、シオリはまた揺れ動いていた。